【内田雅也の追球】「明日は今日より」土の声に耳傾けて 中野に見習ってほしい向上心持ち続ける姿勢

[ 2022年9月19日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神0―1ヤクルト ( 2022年9月18日    甲子園 )

<神・ヤ>4回2死一塁、中野は中村の打球を好捕(撮影・大森 寛明)
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 今季2番目の観衆4万2614人のため息が幾度も銀傘に響いた。すでに球団ワーストの零敗の数は26度目を数えた。

 敗因が打線なのは承知している。1回裏1死一、二塁で3ボール0ストライクから大山悠輔が三ゴロ併殺打。7回裏1死一塁で代走島田海吏が二盗憤死。8回裏1死一、二塁で中野拓夢が二ゴロ併殺打。いずれも積極性という熱さは見えたのだが、読みや狙いの冷静さと両立でありたい。

 同じことは守備でも言える。決勝点は6回表。先頭の遊ゴロを中野が悪送球。続くバントを藤浪晋太郎が一塁悪送球(内野安打と失策)と続けざまのミスで失った。

 中野は3回表にも一塁悪送球をしていた。この時は低投で、6回表は高投と、送球が上下に乱れていた。リーグ最多の失策数は17個まで伸び、同じくリーグ最多失策だった昨季の数に達した。

 一方で4回表には三遊間ゴロを横っ跳び好捕して一塁で刺す美技もあった。ただし、守備率9割9分が望まれる(つまり失敗は100回に1回)なか、派手さよりも堅実さがほしい。取れるアウトは確実に取りたい。

 阪神の歴代遊撃手には名手が多い。それでも吉田義男は1年目38個、2年目30個の失策があった。独りでデコボコのトタン板を敷いて、不規則バウンドにも対応する壁当てのゴロ捕球を繰り返した。見ていたのは「甲子園の土守」と呼ばれた名物グラウンドキーパー、藤本治一郎だった。

 藤田平も平田勝男も鳥谷敬も練習で名手となったのだ。多くの汗や涙が染みこんでいる土は何でも知っている。中野も土にまみれ、土の声に耳を傾けることだ。

 1924(大正13)年の開場時、土の責任者だった阪神電鉄用度課の石川真良(しんりょう)である。慶大時代は投手、米国遠征も経験した野球人である。不規則バウンドせず、水はけがよく、白球が見やすい…といった最高の土を求め、各地を歩いた。神戸・熊内の黒土に淡路島の赤土を配合してつくった。

 晩年、故郷・秋田に帰り、中学校で英語と野球も教えた。口癖の座右の銘は「今日はきのうより、明日は今日より」だった。向上心を持ち続ける姿勢を見習いたい。

 石川は69年、79歳で没した。きょう19日が命日である。=敬称略=(編集委員)

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2022年9月19日のニュース