【内田雅也の追球】「恥」をしのんでの防戦 絶対に流れを渡さないという阪神の本気

[ 2022年9月12日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神5―0中日 ( 2022年9月11日    甲子園 )

<神・中>5回1死一、三塁、勝野は見逃し三振に倒れる。投手西純(撮影・北條 貴史)
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 セーフティースクイズ・プロテクション(防御)について書く。

 阪神1―0リードの5回表、1死一、三塁の守り。打者は投手の勝野昌慶でセーフティースクイズ要警戒の場面。阪神は一塁手・原口文仁を一塁ベースより前に出て守らせ、投手・西純矢が投球動作に入ると、前進チャージさせた。

 攻撃側は一、三塁はセーフティースクイズの好機だ。一塁手がベースについているため、前進が遅れる。バントを一塁側に転がせば、三塁走者も打球がよく見え、スタート・ストップの判断をしやすい。だが、一塁手が前にいると、いいバントでなければ三塁走者の生還は難しくなる。

 ただし、この隊形の難点は一塁手がベースを空けてしまうため一塁走者はリードを大きくとれ、二盗しやすくなる。

 かつて、あるコーチにこの件を問うと「本気で防ぎにいくなら、一塁手を前に出すしかない」と話し、こう付け加えた。「だが、プロがただで相手に二塁を与えるのは……ちょっと恥ずかしい」

 この夜、阪神はいわば恥をしのんで1点を防ぎにいった。4回裏に1点を奪うまで20イニング連続無得点という貧打で「1点OK」の余裕などない。中盤5回でも必死の防戦に出たのである。

 結果、中日はセーフティースクイズをしてこなかった。いや、一塁手の位置や前進を見て、サインを出せなかったのかもしれない。

 5球目にそれまで自重していた一塁走者・土田龍空が走り、二盗は楽々成功。フルカウントからの6球目、内角速球で見逃し三振に切ったのだ。勝野はバントの構えもしなかった。

 一打逆転の2死二、三塁で迎えた岡林勇希を遊ゴロにとり、無失点で切り抜けたのだった。

 少し前の8月30日の広島戦(甲子園)でも、一塁手前進の隊形でセーフティースクイズを防いでいる。この日と同じ5回表1死一、三塁で打者が投手(森下暢仁)だった。広島はセーフティースクイズを敢行してきたが、一塁手・大山悠輔のチャージが激しく、バントは捕手前に転がり、三塁走者を憤死させた。

 逆転の走者を得点圏に進める危険をおかしても1点を防ぎにいった。なりふり構わずの必死さが伝わってくる。そして防御は成功して、流れを渡さなかったのである。=敬称略=(編集委員)

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2022年9月12日のニュース