【内田雅也の追球】佐藤輝の二盗成功に見えた水面下の激闘 サインを読まれても、クセは盗んでいたか

[ 2022年8月4日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神2―1巨人 ( 2022年8月3日    東京D )

<巨・神(17)>4回、二盗を決める佐藤輝(撮影・河野 光希)
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 阪神は巨人にサインを解読されていたのではないか。4回表2死、一塁走者・佐藤輝明が二盗した場面。巨人バッテリーはピッチアウトした。「ジスボール」(次の球)での盗塁のサインが盗まれていたようである。

 走ったのは打者・糸原健斗へ2ボール2ストライクからの7球目だった。投球する直前、戸郷翔征がこの打席初めてのけん制球を放り、違和感を感じていた。佐藤輝はさほどのリードも取っていなかった。そしてピッチアウトだったのだ。

 ただし、佐藤輝のスタートは抜群だった。東京ドーム記者席は三塁側内野席にあり、投手と一塁走者が直線上に並んでよく見えた。戸郷が左足を上げる前に走りだしていた。ピッチアウトでも二塁は悠々セーフだった。

 サインを盗まれていた阪神は逆に戸郷のけん制や投球のクセを盗んでいたのだろう。

 この夜はシーズン99試合目。残り3分の1を切った。勝敗には直接関係しないが、激しい水面下での情報戦がかいま見えたプレーだった。

 かつて、このサイン解読について当欄で原稿を書き、岡田彰布から「なんで書いたんや」と不満顔をされたことがある。2012年5月22日のセ・パ交流戦、阪神―オリックス戦(京セラ)だった。阪神はめったに走らない新井貴浩に二盗させ憤死した。直前にそれまで投げなかったけん制偽投があり、おかしいと感じていた。「ジスボール」の盗塁のサインを解読されていた、と感じたまま書いた。オリックス監督だった岡田が「書くと阪神がサインを換えてしまうやないか」というわけで、半ばサイン解読を認めていた。

 岡田は阪神監督時代、巨人や広島のサインを解読していたと、著書『オリの中の虎』(ベースボール・マガジン社新書)で明かしている。そして実際に盗塁阻止以上に<裏で支えてくれる人を含めて、選手もみんなが相手を呑(の)んでかかるようになる>と精神的効果を説いていた。

 ただ今回の阪神は結果として二盗は成功。サインを読まれていたとしてもクセは読んでいたわけである。スコアラーやコーチ、表に出ないスタッフの苦労を推して知る。

 この夜の勝因は伊藤将司をはじめ救援3投手の好投だ。快打や大飛球の多くを野手が処理できたのも情報戦の勝利かもしれない。=敬称略=(編集委員)

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2022年8月4日のニュース