怖くて仕方なかった野球人生の終わり かつて「可愛すぎるスラッガー」と呼ばれた天才打者の今

[ 2022年5月13日 08:30 ]

谷口雄也氏
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 「東京、暑くないですか?」。4月26日の東京ドーム。かつて「可愛すぎるスラッガー」と呼ばれた男は、人懐こい笑顔を浮かべて汗を拭った。昨年限りで現役引退を発表した元日本ハムの谷口雄也氏(29)。現在は日本ハムの球団職員としてアカデミーの指導と、来年3月に開業する新球場のPR業務を兼務している。

 愛工大名電から10年ドラフト5位で入団。低い弾道から広角に打ち分ける天性の打撃センスを武器に、14年から外野手として頭角を現した。16年には自己最多の83試合に出場し、打率・254でチームの日本一にも貢献。しかし、翌17年に右膝前十字じん帯の再建手術を受けた。翌18年に復帰したものの、出場機会を減らした。

 「現役時代、それ(引退)を考えるのが怖くて仕方なかった。いつか終わりがくるというのはずっと思ってはいたけど」。まだ29歳。将来への不安を抱えながら、昨年10月25日に現役引退を発表した。「次、何をしようとか一切、想像できなかった」。そんな思いを抱いていると、12月のファンフェスティバル中に声がかかった。

 新球場を運営する「ファイターズスポーツ&エンターテイメント(FSE)」の前沢賢取締役事業統轄本部長(47)から、新球場のPRをお願いしたいという内容だった。現役時代は「可愛すぎるスラッガー」と呼ばれた甘いマスクで女性ファンの人気を集め、今もツイッターのフォロワーは29万人を誇る。新球場を広くPRしたいFSEに適任といえた。

 「選手としてフィールドに立ちたかった思いは当然、強かったが、また違う形に力になれるというところで断る理由はなかった」と谷口氏は言う。何よりも、自分を育ててくれた球団、そしてファン。北海道民の力になれることがうれしかった。慣れないPC業務に悪戦苦闘の日々も、今は充実感にあふれているという。

 「今でもこの先もずっと思っていることは、やっぱりファイターズファン、北海道の人にこれだけ大きくしてもらったということ。何か形で恩返しがしたい」と話した谷口氏は、今年1月に都内から北海道へ引っ越したばかり。都内の蒸し暑さにばてる姿が、既に北海道に染まっているようでうれしかった。(記者コラム・清藤 駿太)

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2022年5月13日のニュース