魂の投球が生んだ 中日・大野雄大の29人連続アウト

[ 2022年5月12日 08:00 ]

6日の阪神戦で快投を見せた中日・大野雄
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 久しぶりに原稿を打つ手が震えた。5月6日の阪神戦(バンテリンドーム)での中日・大野雄大の快投。両軍無得点で迎えた延長10回2死から佐藤輝に中越え二塁打を許し、惜しくも完全試合こそ逃したが、1試合で29人連続アウトをとったのは史上初の快挙だった。

 調子を落としていた阪神が相手とはいえ、これほどの投球は予想できなかった。立ち上がりからツーシームは切れていたものの、逆球が目立ち、絶好調とは言えない出来だと思った。相手の青柳の方が完ぺきな投球に見えた。

 投球を映像で振り返ってみると、結果球に絞れば安打を打たれるまでの打者29人のうち、捕手・木下が構えたミットの付近にきた球が22球、逆球や甘く入ったコントロールミスが7球。約3分の1は“失投”だったということになる。佐藤輝に浴びた二塁打も外角低めを狙った直球が真ん中高めに抜けたものだった。

 そこまでにもやられたと思った球がいくつもあった。8回、先頭の大山が放った左飛、続くロハスの三邪飛はどちらも高めの甘い球だった。だが、インパクトの瞬間にバットを押し戻すような球の勢いや重さを感じた。

 100年以上前に「人間の魂は21グラム」と結論づけた医師がいる。米国マサチューセッツ州の医師・ダンカン・マクドゥーガル博士は、1907年に死の床に伏す患者のベッドを当時の精密な秤で計測し、死の瞬間に体重が21グラム減少したという実験結果を発表した。

 この結果には懐疑的な意見もある。大野雄の魂をこめたボールが実際に重いということはないだろうが、相手を圧倒する気迫や気合といった目に見えない力は存在すると思う。

 この試合はチームが勝率5割で、勝てば貯金、負ければ借金という重要な一戦だった。同じ状況だった3月25日の開幕・巨人戦(東京ドーム)では6回4失点で負け投手になっている。

 チームを思う投手キャプテンの闘志に火がついていたのは間違いない。開幕前に大野雄が話していたのは「気合マックスで炎のピッチングをしたい」。言葉通り、魂を燃やした快投だった。
(記者コラム・中澤 智晴)

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2022年5月12日のニュース