【野球人と武人画師の異色対談(下)】松坂大輔氏がこうじょう雅之氏に語った野球界への思い

[ 2022年2月26日 06:30 ]

対談する松坂大輔氏(左)とこうじょう雅之氏 (撮影・光山 貴大)
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 西武、レッドソックスなど日米で活躍し、昨季限りで現役を引退した松坂大輔氏(41)が「武人」になった。スポニチ本紙評論家を務める松坂氏が引退記念にと、京都出身の水墨画家で「武人画師」としても知られる、こうじょう雅之氏(43)に依頼した「武人画」が完成。2枚の作品が松坂氏手渡されるとともに、「野球人」と「画家」による異色の対談が行われた。話は兄弟論に発展、松坂氏は、今後の野球界での活動へと思いをはせた。

 2人には兄弟がいて、同じく野球をやっていたという点でも、境遇は似ている。こうじょう氏から、そんな兄弟の関係性への話が向けられた。

 こうじょう雅之氏(以下、こうじょう)「僕も野球一家で、自分の兄は4歳上で、それこそ小、中学校と日本代表になって、平安高に行って亜細亜大学に行って、ドラフトにもちょっとかかった。僕は兄と比較対象になりながら、裏でやっていた。松坂さんは、(12月4日の)引退セレモニーで、“小さい時から常に僕と比較され、苦しい時期を過ごしたこともあった弟にも感謝しています”と話されていた。私の兄もそう思っていたのかなと考えさせられました」

 松坂大輔氏(以下、松坂)「高校時代から思っていましたね。本人たちが望む、望まないに関係なく、比較されるようになって。小、中学校の時は、弟の方がうまくなると言われていましたからね。なおさら(兄の)僕が高校3年生の時にああいう形になって、高校1年生の弟は相当苦しい思いをしてるんじゃないかと、高校時代から思っていました。僕は僕で、小、中学校とそう言われてきたので、すごい悔しくて、そうなるもんかと思ってやってきた。扱われ方の違いが出た時に心配はしましたね」

 こうじょう「弟の方がうまくなると僕も言われたことがある。僕は自分の性格的にも、人生的にも、表より裏で色々とやるのが好きなんですよ。生き方自体は違うと思いますが、(松坂さんの)弟さんも今、スポーツメーカーに勤められている。裏方じゃないですか。すごい共感を持っている」

 松坂氏、こうじょう氏は互いに聞きたいことをぶつけ合った。

 松坂「作品を作る上で一番大事にしていること、すごく抽象的ですが、聞いてみたいですね」

 こうじょう「僕は結構、こだわっていることはあるのですが、一番初めに出来上がったものは、自分の息子に見せるんですよ。これは4歳の時から息子に見せて、今3年生なんですけど、息子がかっこいいと思うものを描くということは続けている。家族が好きだといっているものを世の中に出す。それは一番大事にしている。感情面で言うと、人の心が動く画ですかね。怖いとか、驚きとかも含め、人の心を動かせる画を描いた時に、人って感動するのかなと。見た目の良さももちろん大事ですが、どう思って仕上げていくかで、(作品は)生きてくると思う」

 松坂「それはこの作品を見ていたら伝わります。強いエネルギーを感じると一番最初に思いました」

 こうじょう「松坂さんは今までも何度も質問されていると思いますが、現役の選手と今の立場では大きく違うと思います。今は何を感じてますか」

 松坂「現役ではなくなった自分に何ができるのか。野球人気が低下していると言われていますし、単純に野球を知ってもらう、野球はいいものだ、楽しいものだ、と知ってもらう。遊びでもいいから野球にかかわってくれる人たちを増やしたいですね。そのために、自分に何ができるのかは考えています。選手ならそのアピールの仕方も簡単だったと思うのですが。立場が変わると難しいですし、晩年はけがばかりしていましたし、僕が実際に投げているところを知らない子供たちが多いと思っているので。そこを含め、新しい野球ファンを増やしていくにはどうしたらいいかを、毎日考えていますね」

 こうじょう「熱いものがありますね」

 松坂「今は、分からないことだらけなのが、逆に楽しいというか。まだまだこんな知らないことがあるんだな、と思いながら取材させてもらっている。選手として、たくさん取材も受けてきましたが、立場が反対に変わると、こんなに難しいものなのかと思っています。選手でいることの方が楽です(笑い)だから本当に、現役の選手たちには、できるだけ長くユニホームを着てほしいなと思います。僕もボロボロになって、しがみついてやってきましたけど、みんなにもできるだけ長くユニホーム、現役でいてほしいと思います」

 こうじょう「本当に貴重な話の連続、ありがとうございました。また、世の中の状況が許すようになったら、食事をしながらゆっくり話をしたいですね」

 松坂「はい。こちらこそ、よろしくお願いします」

 松坂氏は、こうじょう雅之氏のこの作品が描かれたパッケージに入った「高級焼酎」を、お世話になった関係者に渡している。そんな感謝の気持ちを、こうじょう氏の画が際立たせている。(終わり)

 ◇松坂 大輔(まつざか・だいすけ)1980年(昭55)9月13日生まれ、東京都出身の41歳。横浜高3年時に甲子園春夏連覇。98年ドラフト1位で西武入団。99年に新人王、01年の沢村賞獲得まで3年連続最多勝。07年からレッドソックスなどMLBでプレー。15年にソフトバンクで国内復帰、中日、西武に所属し昨季限りで現役引退。NPBで114勝65敗1セーブ、防御率3・04。MLBでは56勝43敗1セーブ、防御率4・45。2度の五輪に出場。WBCでは06、09年に出場し連続MVPで日本の連覇に貢献した。

 ◇こうじょう 雅之(こうじょう。まさゆき)1978年生まれ、京都府宇治市出身の43歳。2014年から武人の姿を墨で描く「武人画師」として活動を開始。NHK大河ドラマ「真田丸」カレンダーのデザイン、映画「スター・ウォーズ」のオフィシャル武人画など、コラボレーション作品を発表。2018年から宇治市観光大使も務める。

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