【内田雅也の追球】プロとして大切な「話し方」を伝授 藤浪や大谷も受けた新人研修会の名物講座 

[ 2022年1月13日 08:00 ]

新人研修会「話し方講座」で阪神・藤浪を指導する深沢弘さん(2013年3月4日、グランドプリンスホテル新高輪)
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 恒例のプロ野球新人研修会で今はなくなってしまった講座がある。元ニッポン放送アナウンサー、深沢弘さんによる「インタビュー・話し方講座」だ。2016年まで開かれていた。

 たとえば、13年3月4日には阪神の藤浪晋太郎と日本ハム(現大リーグ・エンゼルス)の大谷翔平がそれぞれ呼ばれ、模擬インタビューを受け、プロの世界の感想、理想の選手像などを話した。深沢さんは藤浪に「言ってることは文句ないんだけど、まだ口に開きが小さいね」と話し「自分の名前を言ってみて」と指導する場面もあった。大谷については「一番いいのは相手の目を見て話すこと。あんな優しくしっかり見る選手はなかなかいない。長嶋さん、王さんもそうだった」と絶賛していた。

 プロ野球選手にとって話し方は確かに大切だ。阪神・矢野燿大監督や日本ハム・新庄剛志監督もお立ち台での話し方や内容を重要視している。プロとして一人前になるには自分の思いを自分の言葉で相手に伝える力も必要だろう。だから、日本野球機構(NPB)も新人研修会の一コマに組み入れていたのだろう。

 12日にあった今年の新人研修会はコロナ下にあって昨年同様、リモートで行われた。あの名物講座がなくなって、6年になる。寂しい。そして、多くの新人選手を指導していた深沢さんが亡くなったのは何より寂しく、悲しい。昨年9月8日の昼、85歳だった。

 同日夕のニッポン放送ショウアップナイターに電話出演した解説者の江本孟紀さん(74)は「私の今日あるのは深沢さんのお陰」と話していた。阪神時代、あの「ベンチがアホ」発言が波紋を呼び、現役を引退した1981年、「路頭に迷っていた」江本さんに「解説をやらないか」と誘ってくれたのが深沢さんだった。話している最中、江本さんは「うーー……」と涙で声を詰まらせ、「すみません……」と言葉にならなかった。

 人間的な深みというのだろうか。深沢さんについて、元スポニチで野球記者の先輩、荒川和夫さんが長嶋茂雄氏との親密な関係を<「長嶋邸の勝手口から入れる男」と呼ばれた><取材者と選手を超えた親友>とウェブメディア「ベースボールキング」に書いていた。

 あの「話し方講座」はマスコミ公開だった。新人選手だけでなく、われら取材者にも教育的、教訓的だったと振り返っている。(編集委員)

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2022年1月13日のニュース