【内田雅也の追球】「消耗戦」の果ての逆転サヨナラ ヤクルトが示し、オリックスがやり返した

[ 2021年11月21日 08:00 ]

SMBC日本シリーズ2021第1戦   オリックス4-3ヤクルト ( 2021年11月20日    京セラD )

<オ・ヤ>9回、アウトローの球を見極めるジョーンズ(撮影・大森 寛明)
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 殊勲者は同点打の宗佑磨、サヨナラ打の吉田正尚だが、それ以前にオリックスは逆転へのお膳立てを整えつつあった。

 打者の食らいつく姿勢が見えだしていたのだ。9回裏、先頭の紅林弘太郎が6球目を右前打し、代打アダム・ジョーンズは外角低めをファウルし見極めて7球目を四球でつないだ。監督・中嶋聡が「ジョーンズがつないだのがすごい。ワンバン空振りした後、しっかり見て。あの四球が大きかった」とたたえていた。

 紅林は「安達さんが追い込まれても粘っていた。僕も粘って出塁をと考えていました」と話す。

 こうした姿勢はすでに8回裏から見え、清水昇に1死から、杉本裕太郎7球(空振り三振)、T―岡田6球(中前打)、安達了一8球(四球)、ランヘル・ラベロ6球(見逃し三振)。清水には1回で32球を投げさせていた。9回裏無死一、二塁をつくるまで連続6人が6球以上粘っていたことになる。

 ただし、当初、この食らいつく姿勢が際だっていたのはヤクルトの方だった。5回まで0―0だが、オリックス・山本由伸の球数は95球に上っていた。ヤクルト・奥川恭伸は71球と通常通りの球数だった。

 今季、セ・パ両リーグの投手の1イニングあたりの投球数(P/IP)を少ない順で並べると、最少が奥川の14・47球、加藤貴之(日)14・62球、田中将大(楽)14・85球と続き、山本は4番目で15・03球。両先発とも本来、球数の少ない投手なのだ。

 日本シリーズの空気や緊張もあろうが、山本がこれほど球数を要するのは珍しい。ヤクルトは5回まで6球以上投げさせた打者がのべ7人に上った。一方、奥川が6球以上要したのは3人だけ。消耗度に差が出ていた。

 ヤクルトは今季セ・リーグで最多513個の四球を得ている。一方、オリックスはパ・リーグ最少の384個。そんな特徴が出ていたと言える。

 試合が動いたのは6回表。2四球の後、中村悠平の中前打で均衡は破れた。中村は「みんなが――」と話した。「みんなが初回から何とかしようと打席の中で粘って、後ろにつなぐ気持ちが山本投手の球数につながったと思います」。全員でつなぐ攻撃である。

 「野球は消耗戦」と言ったのは映画にもなった『マネー・ボール』の主人公、アスレチックスGMビリー・ビーンだ。出塁率を重視し四球を選ぶ選球眼を「野球の成功に最も直結する能力」とみていた。前半はヤクルトが消耗戦で優位に進めていたことになる。

 山本の今季1試合平均投球数は111・9球。6回112球で降板に追い込んだのは狙い通りだろう。後の村上宗隆2ランにつながっていた。

 攻撃は安打や本塁打を打つばかりではない。凡退の仕方が後の得点を生む。ヤクルトが示した全員攻撃を最後はオリックスがやってみせたのである。 =敬称略= (編集委員)

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2021年11月21日のニュース