「ベイスターズ 再建録」著者が伝えたいこと「“ベイは強いし面白い”が本当の成功」

[ 2021年7月20日 10:00 ]

二宮寿朗氏インタビュー(2)

「ベイスターズ再建録『継承と革新』その途上の10年」
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 プロ野球・横浜DeNAベイスターズの誕生10周年を記念して、6月25日に「ベイスターズ再建録『継承と革新』その途上の10年」(双葉社)が発刊された。2011年12月の球団誕生からの成功と失敗を球団職員の奮闘を中心につづった異色のスポーツノンフィクションは、発刊から好評を得ている。スポーツニッポンは、著者の二宮寿朗氏をインタビュー。同氏が自身の考えるDeNAの「本当の成功」について明かした。(聞き手、DeNA担当・大木 穂高)

 
――取材対象者については事前に情報収集はしたのですか
 「多くは情報を集めていません。1回40分くらいの取材の中で、それぞれの方の色が見えてくる。球団にも足を何度か運び、中畑監督が職員を集めて言葉を発した場所も見ました。試合中は球場外をまわり、職員の方と同じ視点が持てるようにしました。あと、これは絶対に紹介してもらいたいのですが、登場するどの人もみんな話が面白い。それに個性的。楽しまないと損という人の集合体で、それが一冊の本になった。球団のポテンシャルを感じたのは、やはりこの球団は『人間』のエネルギーの強さが基盤にあるということ。それを強く感じた」

――三浦(大輔)監督にも研修を受けさせるという話もでてきます
 「三浦さんは球団のレジェンド。その人材にカリキュラムを積ませる。アメリカに研修に行ったり、スタッフとして入ったり、計画的な準備もしてきた。投手コーチ、2軍監督も経験している。これは球団の狙い。三浦さんと一緒に行こうというアクションは正しかったし大ヒットですね。引退した選手を1度球団から手放すこともある。でも球団の狙いはしっかりしていたと思う。引退発表までの話も読み応えがありますよ」

――書き終えての二宮さんが見た球団10周年の評価とは
 「再建録というのは、まだ発展途上という意味。いつか完成される形があるかもしれないが、現時点では球場一体経営の形を構築し活動を効率化させたことは評価されます。横浜スタジアムは球場は狭いけど駅からは近い。これは最大のメリット。そのメリットを活かすべく、球場の持つポテンシャルを最大限に活かす取り組みをしてきたことは評価できると思います。ただ…」

――ただ、何でしょうか?
 「興業という観点から見てもやはり『勝つ』ことは大事になります。10年以内に優勝の目標は達成していない。勝てなくもお客さんが入ればいい、ではダメ。やはり勝利することはチームの認知を広げる。本当の成功は、『ベイは強いし面白い』となること。その意味では優勝は大事だと思う。三浦監督は開幕当初は苦しんだけど、今は勝ち星を積み上げてきた。でもやはり何かしらの文句は出る。勝つことで得る評価、それがないと、文句は言われ続けるし成功にはなりません。いつかこの球団の完成形を見てみたいですよね」(インタビュー終わり)

 ◆二宮 寿朗(にのみや・としお)スポーツライター。1972年愛媛県生まれ。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社し、格闘技、ラグビー、ボクシング、サッカーなどを担当。退社後、文藝春秋「Number」の編集者を経て独立。様々な現場取材で培った観察眼と対象に迫る確かな筆致には定評がある。著書に「松田直樹を忘れない」(三栄書房)、「中村俊輔サッカー(文藝春秋共著)などがある。

<取材後記>
 記者は1度目の球団担当だった2011年12月、中畑監督が就任会見に臨む当日自宅から会場に向かう車に同乗した。その車中で「大木、スローガンは“熱いぜ”にしようと思うがどうか?」と聞かれた。発表前にメディア関係者で「熱いぜ」を耳にした第1号だろう。率直に内心「えっ、それだけ?。しかも古風」と思ったが、中畑監督が口にすると、その言葉に魂が吹き込まれる。その後の「熱いぜ」ブーム、球団の歩みはご存じの通り。記者の不安は杞憂に終わった。10年前に「熱いぜ」を感じ、今「横浜一心」を見届けている。誕生と10周年に現場担当でいることに二宮氏と同じく縁を感じ、同氏が勝つことで得る評価と話したことにも共感する。再建録を読み取材の丁寧さに心打たれた。あとは“優勝”とともに訪れる球団の完成形を二宮氏と同じ様に待ち続けたい。(11、21年DeNA担当・大木 穂高)

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