【内田雅也の追球】時間を操った阪神・青柳 間合いに幅を持たせる工夫 明暗分かれた投球間隔

[ 2021年6月5日 08:00 ]

交流戦   阪神6ー1ソフトバンク ( 2021年6月4日    甲子園 )

<神・ソ(1)>2回1死二、三塁、上林を三振に打ち取る阪神・青柳(撮影・後藤正志)
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 今季開幕投手も務めたソフトバンクの石川柊太は投球間隔が短い。昔風に書けば、ちぎっては投げのピッチ投法だ。

 昨年、平均投球間隔(無走者時)が最短の8・8秒で「スピードアップ賞」を受けた。NPBの計測方法は投手が捕手の返球を受けてから投球動作に入るまでのタイムだ。2009年から「15秒ルール」(無走者時)が採用され、超過するとボールが宣告される。

 大リーグのピッチ計測は捕手の捕球から次の捕球まを計る。春季キャンプのブルペンでの投球練習は時間制で、各投手の持ち時間が限られている。投手コーチがストップウオッチを手に指導する際に用いる。むろん、この方が長くなる。今回はこの方法で手もとのストップウオッチで計ってみた。

 石川のピッチ・タイムは最短で8・7秒と確かに早かった。甲斐拓也からの返球をもらえば、すぐにセットに入り――彼は無走者でもセットポジションから投げる――、サインにうなずいてモーションに入った。最長でも12・7秒だった。

 一方、阪神先発・青柳晃洋は同じく無走者時、最短で14・1秒、最長では32・8秒と18・7秒の幅があった。この32・8秒は5回表先頭、松田宣浩に初球空振りを奪った後、2球目を投げるまでのタイムだ。サインを嫌ったわけでなく、自ら長い間合いを使ったのだ。

 投手コーチ・福原忍は青柳に「回の先頭を出さないように注意してほしい」と語っていた。4点先行した後、追加点がない中盤の先頭打者で、より慎重だったのだろう。

 青柳も無走者でもセットで投げ、ボールを長く持ったり、時にクイック投法で投げたりと、間合いに変化をつけていた。

 有走者時は走者警戒でタイムは長くなる。ポイントとなった、2回表1死二、三塁で上林誠知空振り三振時は22・3秒。6回表1死一、二塁での甲斐見逃し三振時は39・5秒と時間をかけた。

 実は今春4月22日付の当欄で、青柳が同じ間合いで連投して決勝打を浴びたことを書いた。岡本和真に2打席連発を浴びた巨人戦だった。あの反省もあったろうか。間合いを操っていたのだ。
 セットアッパー岩崎優の登録抹消で救援陣の不安が募る試合。8回1失点は大の付く殊勲だ。大差で9回表に復帰させた藤浪晋太郎を救援で使えたのも大きい。藤浪は救援陣再編成の柱として期待を寄せていた。

 反対に阪神は石川の早い間合いにも「構え遅れ」せず、初球から積極果敢に打ちに出て、立ち上がりに攻略していた。初球については投球間隔は関係なく、早いピッチに惑わされることもないわけだ。

 1回裏先頭、近本光司は初球ファウルの後、12・2秒後の速球を左前打した。早い投球間隔で詰まってはいたが負けなかった。続く北條史也は2球目、けん制球2球をはさんで57・1秒後の速球を先制二塁打している。

 2回裏も先頭、佐藤輝明が2球目、9・7秒と短い間隔のカッターに詰まりながらも左翼線二塁打して突破口を開いた。2死後、近本の2点打は初球だった。

 前回も書いた米詩人、ロバート・フロストの言葉を再掲しておきたい。

 「詩人は野球の投手のごとし。どちらもそれぞれの間(ま)を持つ。この間こそが手ごわい相手なのだ」

 もちろん、石川の早い間は強みかもしれない。しかし、この夜は自在に操った青柳は間を味方につけて、また、たくましくなっていた。 =敬称略= (編集委員)

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