【内田雅也の追球】「喰らいつく」姿勢 原口、北條、山本……阪神控え陣が示した「粘り」

[ 2021年4月4日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神1ー0中日 ( 2021年4月3日    京セラD )

<神・中(2)>9回無死、原口は四球を選ぶ(投手・福)(撮影・坂田 高浩)
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 サヨナラ打を放ったヒーロー、山本泰寛は慶大出身である。「慶応ボーイ」のイメージとは異なり「泥臭いですよ」とある慶大野球部の先輩から聞いていた。巨人から金銭トレードで移籍してきた際、同じく慶大の大先輩で阪神元監督、安藤統男からも「なかなか、ねちっこいぞ」と聞いていた。

 そんな姿勢を同じく慶大出の球団広報課長、矢浪峻介なら「ボールに喰(く)らいつく」と表現するだろう。一昨年、選手談話の「食らいついた」を報道陣にメールで送信する際「喰」という文字を使っていた。「より動物的で雰囲気が出る」と話していた。

 9回裏のサヨナラはこの「喰らいつく」姿勢が呼んだものだ。先頭の代打・原口文仁の打席を見ただろうか。

 この回から登板の左腕・福敬登に初球空振り、2球目は泳いでバットの先端に当たる一塁線ファウルと全くタイミングが合ってなかった。2球で追い込まれながら、際どいボール球を見極め、難球をファウルして9球目を選んで四球で出たのだ。

 北條史也が難しい代打での送りバントを決め、2死後、山本が初球を中越えに運んだ。いずれも喰らいついた結果だ。

 0―0の投手戦。阪神打線は8回まで2安打(ともに内野安打)、無得点と中日先発の柳裕也に沈黙していた。

 確かに緩急を使い分け、制球の良かった柳は好投で、攻略は難しい。

 ただ、喰らいつく姿勢はどうだったか。各打者が打席で相手投手に投げさせた球数をみると、6球以上が6人(近本光司、糸原健斗2、大山悠輔、梅野隆太郎、原口)。相手の中日は9人いた。

 ボール球を見極め、難球をファウルする打撃姿勢はどうだったか。

 今季開幕から選球眼が光っていたジェフリー・マルテでさえ、1、2打席目ともボール球を少なくとも4球は振って連続空振り三振。大物新人の佐藤輝明もボール球に手を出していた。

 映画にもなったマイケル・ルイスの『マネー・ボール』(ランダムハウス講談社)の主人公、アスレチックスGM(現上級副社長)ビリー・ビーンは「アウトになっても、投手に5球以上投げさせた打席はプラスとみるべきだ」と評価に盛り込んだ。ルイスは<データ分析から判明した事実>として<打撃能力を評価する際は、出塁率と、1打席あたりの投球数とが圧倒的に重要であること>を記している。

 ビーンの印象的な言葉に「野球は消耗戦」がある。相手投手に球数を投げさせることで1試合や3連戦、シーズンを有利に戦えるという意味なのだが、1打席での勝負にも通用するのではないか。

 「粘り」は長年、阪神打線の良き特長だった。積極性は失わず、しかし慎重にボールを選び、ファウルで粘る。歓喜の1―0サヨナラ勝利のいま、もう一度、原点を思い返したい。=敬称略=
(編集委員)

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