【内田雅也の追球】「満塁OK」の四球でしのいだ藤浪 勝負で打たれた救援 「無理するな」の大局観

[ 2021年4月3日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神3ー6中日 ( 2021年4月3日    京セラドーム大阪 )

<神・中>4回2死二、三塁、藤浪は京田に四球を与える(撮影・北條 貴史)
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 大リーグ通算478セーブをあげたクローザー、リー・スミス(殿堂入り)がブルペンからマウンドに向かおうとすると、少年が外野席から身を乗り出し、「リー、無理しちゃダメだよ」と叫んだ。

 評論家・作家ジョージ・F・ウィルの名著『野球術』(文春文庫)にある逸話である。

 同書に<レッドソックスに移って初勝利>とあるから、1988年4月18日のボストンの本拠地、フェンウェイ・パークでのレンジャーズ戦のことだろう。1点リードの8回表に登板し、9回表、捕逸で同点にされた。その裏、マイク・グリーンウェル(後に阪神)の中犠飛でサヨナラ勝ちしている。

 試合後、スミスは言ったそうだ。「今日勝てたのは外野席にいた坊やのおかげだよ」

 無理な勝負を避ける四球があった。

 ウィルは<「無理するな」とは野球国の憲法第一条だ>と記している。無理な勝負は避けるべきなのだ。

 この夜、6回1失点と先発の役目を果たした阪神・藤浪晋太郎は無理をしない投球が光った。4回表の京田陽太、5回表のダヤン・ビシエドへの四球である。いずれも満塁を招いたが、後続を取り、無失点でしのいだ。

 京田は4回表1死一、三塁。俊足で併殺を奪うのは難しい。前の打席で三塁打も浴びている。

 藤浪と梅野隆太郎のバッテリーは三振狙いで攻めたが暴投で二、三塁(内野前進守備)。1ボール2ストライクからフォークを3球続け、見極められてた。「四球OK」の思いだったろう。打順は7、8番に下がり、三振、二ゴロで切った。

 ビシエドを迎えたのは5回表2死一、二塁。前2打席はライナー性飛球と二塁打とタイミングが合っていた。無理に勝負はせず、コーナーを狙って四球。次打者を三振に切ったのである。

 投球術が優れていた下柳剛は著書『ボディ・ブレイン』(水王舎)で<アウトの取り方に綺麗(きれい)も汚いもない>として<打たれそうなバッター>は歩かせ<次のバッターで勝負したらいい>と記している。

 試合は前半でリードは2点。状況を見渡す大局観が見えた。意味のある2四球だった。

 一方、3番手の加治屋蓮は8回表1死二、三塁で木下拓哉にフルカウントからのフォークが真ん中に入り、2点二塁打を浴びた。同点となり、藤浪の勝利投手も消えた。

 低めを徹底し、四球で満塁にしてもいい場面ではなかったか。それこそ「無理するな」の状況だったとみていた。

 また、ピンチの芽となった1死後の四球も痛い。同じ四球でも、意味のあるものと無意味なもの、好対照を描いていた。

 どうも加治屋は勝利に直結する局面での登板で、必要以上に力んでいたようだ。速球は140キロ台終盤が出ていたスピードガン表示はともかく、力任せで伸びを欠いていたように見えた。得意のはずのフォークも何球か、とんでもない場所でワンバウンドしていた。

 試合はこの後、4番手・小林慶祐も適時打を浴び、逆転負けとなった。

 開幕間もない7試合目である。監督・矢野燿大や首脳陣は必勝継投はまだ模索中にある。手痛い敗戦には違いないが、移籍組の加治屋と小林の反骨を望む1敗だと記しておきたい。=敬称略=(編集委員)

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2021年4月3日のニュース