【内田雅也の追球】春になれば――の希望

[ 2021年1月12日 09:00 ]

西宮市の成人式「二十歳を祝うつどい」で三本締めを行う新成人たち(11日、甲子園球場)
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 青い空にやわらかな日差し、甲子園は笑顔で若者を迎えていた。西宮市の成人式「二十歳を祝うつどい」が11日、甲子園球場で行われた。

 甲子園球場での開催は昨年に続き2度目だ。新型コロナウイルスの影響で周辺では延期・中止する自治体があり、西宮市も相当に悩んだが開催に踏み切った。

 感染予防を徹底した。マスク着用を義務づけ、座席は間隔を開け、出身中学校ごとに区切った。参加者は3793人で昨年の3679人とほぼ同じだが、座席はバックネット裏だけでなく、一、三塁側スタンドまで広げた。広く、屋根のない甲子園球場という空間が密を避けることにもなる。

 高校野球開催時に試合開始を告げるサイレンで開式。国歌は歌わず、放送のみ。黙想も行い、成人するまで育ててもらった人びとに感謝の思いを伝えた。

 市長・石井登志郎は式辞でスーツや晴れ着姿の新成人たちの晴れやかな表情を見て「開催して良かった」と話した。

 「しかし、この開催が正しかったかどうかは皆さんにかかっています」と大人としての責任を訴えた。「式が終われば、家に帰りましょう。桜が咲くころ、コロナが収まった頃の再会を約束して帰ってください。春の来ない冬はありません。明けない夜はありません」

 市長が示したのは新成人たちへの信頼と、そして「春になれば――」という希望だった。最後は三本締めで、30分ほどの式典を終えた。

 この「春になれば――」は本拠地を新成人たちに明け渡した猛虎たちにも通じる希望だ。コロナの収束はまだまだ見えないが、いつか甲子園に大観衆が戻る日が来ると信じている。

 元広島、ドジャース、ヤンキース投手の黒田博樹は「耐雪梅花麗」を座右の銘とした。「ゆきにたえて、ばいかうるわし」と読み下し、西郷隆盛の五言律詩の一節だ。厳しい雪に耐えてこそ、梅の花は美しく咲くといった意味だ。

 幕末の女流歌人、野村望東尼(もとに)は勤王の志士たちを支援したことで知られる。厳しい状況にもいつか終わりは訪れると、こんな歌も残している。

 「冬ごもり こらえこらえて 一時に 花咲きみてる 春は来るらし」

 辛抱や忍耐が問われている。希望を持って春を待ちたい。 =敬称略= (編集委員)

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2021年1月12日のニュース