【内田雅也の追球】阪神・矢野監督が采配で示した「ヒート」 応えた選手たち 結果だけを求める秋が来た

[ 2020年9月14日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神7―6広島 ( 2020年9月13日    甲子園 )

<神・広(17)> 3回無死一、二塁、犠打を決める大山 (撮影・平嶋 理子)                                                     
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 3カ月遅れで開幕し23試合少ない今季は季節感の調整が難しい。今は例年だとどれぐらいの感覚でいるべきなのか。

 もう秋が来ている!と阪神監督・矢野燿大はその采配(作戦や用兵)で知らしめた。なりふり構わず結果だけを求めていく時期という意味だ。

 大山悠輔の今季初の送りバント(通算4個目)も、藤浪晋太郎の4回1死での交代も、代走植田海への「当たりゴー」も……シーズン前半ではなかった采配だろう。

 元監督の岡田彰布がよく「4月と9月では采配が変わる。当たり前のことだ」と話していた。

 大山バントは3回裏、3―3同点とした後の無死一、二塁だった。大山はリーグ最多タイの併殺打12本で、広島戦の得点圏打率・188、ジャスティン・ボーアのそれは・455だった=成績は12日現在=。ただ、データよりも矢野は心を重んじて指示したはずだ。

 大リーグに「セプテンバー・ヒート」という言い方がある。デッドヒートのヒートである。10月のポストシーズンゲーム進出に向け、9月の熱い優勝争いを意味する。矢野が発したメッセージは、そのヒートの季節が来ているという意味だ。

 かつてスポニチ本紙で原稿を書いていた栗山英樹が<取材したって答えが見つからない理由も実際に監督を経験してみて、はじめてわかった。そもそも、そこに答えはないのだ>と打ち明けている。日本ハム監督に就いて1年目のオフに出した『覚悟』にある。

 <なぜなら、みんな答えを求めて戦っているわけではなく「結果」を求めて戦っているから>。

 だから、矢野も大山のバントに「普通に、勝つために選んだ」と素っ気なかったのだ。

 そして大山は実に丁寧に投前にバントを転がして成功させた。直後、ボーアが適時打を放った。選手たちは応え、作戦は成功したのだった。

 6回裏1死三塁の「ゴロゴー」では近本光司が三ゴロを転がし同点を呼んでいる。2ボール0ストライクと打者有利のカウントで、狙ったようなスイングだった。前監督・金本知憲(本紙評論家)が現役時代から話していた「ボテボテの効用」である。

 もう一つ、決勝弾を放った陽川尚将を書いておく。8回表2死、投手交代ダブルスイッチで一塁に入り、裏の打席で殊勲の一撃を放った。守備で試合に“入れていた”。かつて代打男、桧山進次郎や狩野恵輔らが試合中、ベンチを出て雰囲気に慣れる工夫をしていた。しかも陽川は難しいハーフバウンドを好捕する、隠れた美技もあった。2死一塁で、捕れなければ一、二塁となって4番の鈴木誠也に回るところだった。

 監督の采配でメッセージを受け取った選手たちはそれに応えていた。季節を知り、ヒートしてきたわけだ。

 主に1960~70年代に活躍し、三冠王にもなったカール・ヤストレムスキー(レッドソックス)が語っていた。「毎年この時期(9~10月)になると、朝、目覚めると野球のことを考えている。一日中、思いを巡らし、夜は夜で夢にまで見ている。唯一考えずにすむのはプレーしている間だけなんだ」。そんな秋(とき)がきているのだ。

 試練の13連戦を終え、中1日置いて、巨人戦である。なりふり構わず、勝ちにいくしかない。チーム内には、いい秋の空気が流れている。=敬称略=(編集委員)

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