【内田雅也の追球】チームを背負う心 前監督・金本知憲が感じた「阪神に足りない部分」

[ 2020年8月19日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神0-1巨人 ( 2020年8月18日    東京ドーム )

<巨・神(8)> 9回2死一塁、菅野(中)の前に二飛に倒れ最後の打者となった大山(左)(撮影・大森 寛明)
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 金本知憲(本紙評論家)は「菅野の魂ですよ」と言った。巨人・菅野智之に3安打で完封された阪神の敗戦後、どう感じたかと久しぶりに電話してみた。テレビ中継をつぶさに見ていたわけではないそうだが、勝敗を分けた差は「魂」だとはっきりと言った。

 「巨人は前回対戦で遥人にやられていましたよね。菅野にすれば“今日また同じ投手に負けるわけにはいかん”と気合が入っていました。ハートの問題です。自分ではなく、チームとして負けるわけにはいかなかったんですよ。それを菅野は分かっていましたね」

 阪神・高橋遥人は今月6日、甲子園で巨人を7回3安打零封し、11―0の快勝に導いていた。高橋は以来、中11日で大事な巨人3連戦の初戦に先発する。今季初の中5日登板となる菅野は望むところだったろう。

 「菅野は技術はもちろんメンタルも一流です。エースとしてチームを背負っている、背負える投手なんですよ」

 金本が菅野の「魂」を感じたのは阪神監督1年目、初対戦だった016年4月6日の東京ドームだったという。シーズン初の巨人戦だった前日5日は8―2で快勝、重盗・本盗など「やりたい放題」だった。その翌日、菅野に完封を喫し、0―3で敗れたのだった。

 この時、試合後に菅野が語った言葉に金本は感じ入ったという。菅野はこう言った。

 「昨日、見ていてすごく悔しかった。阪神はいいチームですが、これ以上好きにやらせたくないと思った」

 7日の試合前、野手ミーティングで金本は「敵の言葉だが」と紹介し「やり返す気持ち」の重要性を訴えた。

 「あの時からすでに菅野はチームを背負っていたんですよ。自分だけじゃなく、チームを思って戦っていますね」

 この夜の投球にも、そんなエースの魂を感じたわけである。やられたらやり返す、なめられてたまるか、である。根性論めくが、今の阪神に最も足りない部分だ。そう金本は言いたいのだろう。

 「チームを背負う」という点で言えば、打線では4番打者である。巨人・岡本和真は高橋の失投を一撃で仕留め、左中間へ決勝ソロを打ち込んだ。あれが4番である。

 一方、阪神の4番・大山悠輔は4打数無安打に終わった。9回表2死一塁では二飛で最後の打者となった。

 金本は「4番であれば」と前置きして、厳しいことを言った。「大山はこの敗戦に責任を感じないといけません。チームを背負う気持ちを持ちながら、やっていかないといけないんです」

 現役時代、金本も阪神の4番としての責任を背負ってきた。古く草創期には沢村栄治に向かった景浦将がいた。田淵幸一も掛布雅之も金本も……勝敗の責任を負った。

 金本は阪神を思って語っていた。前監督として選手たちの成長を見つめている。「気持ちはあっても技術が追いつかない部分もありますが……」

 阪神は今季開幕3連戦で巨人に3タテを食らった。あの借りを返す気概は持ち続けないといけない。「伝統の一戦」も、2勝6敗となった対戦成績が、寂しい。

 そして、金本が言うように、チームを背負える選手がいないのが、寂しい。=敬称略=(編集委員) 

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