オコエ瑠偉の勇気に称賛の拍手を送りたい

[ 2020年6月18日 15:00 ]

楽天・オコエ
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 【君島圭介のスポーツと人間】オコエ瑠偉の楽天入団1年目のこと。カラフルな名前入り応援タオルが作られた。2年目以上は色の組み合わせを選べるが新人は球団が決める。オコエのタオルはグリーンと白だった。

 「お、ナイジェリアカラーじゃん」

 初めてのオリジナルグッズを手にした無邪気な笑顔が忘れられない。ナイジェリアは父の祖国だ。

 楽天の同僚ルチアノ・フェルナンドはオコエの兄貴分だ。父方の曽祖母に日本人はいるが、フェルナンド自身はブラジル出身。来日当初は苦労したという。「いじめはありましたよ、もちろん。僕みたいな人間は必ず遭う」。明るい過去ばかりではない。肌の色が違う。言葉がおかしい。排他的な集団行動に苦しめられた。

 そのフェルナンドがかつてオコエについて「僕に言わせればあいつは日本人。ただ、彼は(ルーツが)アフリカ、ナイジェリアなんだというのを強く出す。それが凄い」と感心していた。天真爛漫さはオコエの魅力で、だからこそ周囲に愛されてきたのだと信じていた。

 オコエが15日夜、SNSに真実を投稿するまでは…。

 「おんなじ境遇の人、またその両親の少しでも励みになれば」と前置きした上で、保育園で「醜いアヒルの子」の絵本を読んでいると他の園児が自分を見ながら笑っていたり、お絵かきの時間は「涙ながら、茶色のクレヨンをとり親の顔を書いた」という経験を明かし、小学生の野球チームでは先輩から肌の色を嘲笑され、高校野球では「甲子園には黒人はでるな」と言われたこともあると続けた。

 読んでいて涙が止まらなかった。

 オコエの投稿を受ける形で、妹でバスケットボールの富士通に所属する桃仁花(もにか)も、SNSに「私と兄で毎日涙目になりながら支えあってた日々。私は兄がいなかったら内気な女の子でバスケもやってなかったな~。本当にここには書ききれない。兄の背中は偉大でした。私達を見守ってくれてありがとう神様」と書き込んだ。

 私は才能に溢れ、飛びきり明るいオコエ兄妹が大好きだ。だからこそ、米国で黒人男性の暴行死事件をきっかけに人種差別への抗議の動きが止まらない中、オコエ兄妹が発信したメッセージは心に深く突き刺さった。

 テニスの大坂なおみが人種差別問題をSNSに投稿した際も、日本から心ないリツイートを受けたという。恥を知れ、と言いたい。「まずは競技で成功しろ」など、オコエ兄妹を非難する声があるなら、もう一度、恥を知れと怒鳴りつけたい。

 日本という国で、これほどの苦痛を受けながら、それでも2人を愛すべき人間に成長させたご両親に敬意を表したい。そして、人種が同じというだけでこそこそ寄り集まって、姑息(こそく)な差別を行う行為がこの世から消えてなくなれ。オコエの投稿を読んで、心からそう願う。(専門委員)

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2020年6月18日のニュース