野球居酒屋からも歓声が消えた…「あぶさん」石井店長 3月の売り上げ「半分以下」

[ 2020年4月8日 05:30 ]

コロナで野球が消えた【野球ファンが集う飲食店】

四谷「あぶさん」の店内
Photo By スポニチ

 ひいきチームのプレーを見て、ビールを手に一喜一憂――。そんな光景も見られなくなった。都内に何軒もある野球ファンが集う居酒屋。新型コロナウイルスの感染拡大により、プロ野球の開幕は延期され、さらに7日には緊急事態宣言も発令された。「ダブルパンチ」の状況に客足は遠のき、売り上げも大幅減と死活問題となっている。

 緊急事態宣言が出る前の3日、金曜日の夜。「見ての通りですよ…」。店長の石井和夫さん(71)は寂しそうにつぶやいた。約50席ある店内に客は6、7人ほど。本来ならプロ野球の中継が流れているはずの大型テレビには、録画された高校野球の映像が映されていた。

 「3月上旬くらいからですかね。ここ2週間は特にひどい。団体客、歓送迎会もキャンセルになって…」。東京メトロ四谷三丁目の駅から徒歩2分ほどの居酒屋「あぶさん」。地下に下りると、店内は野球関係の写真や色紙、ユニホームなどで埋め尽くされている。東京の野球ファンにとって「聖地」とも言える場所だ。しかし新型コロナウイルスの感染拡大の影響でプロ野球の開幕は延期。夜間の外出自粛要請も出ている。石井さんは「長くやっていますが、こんなことは初めての経験。3月の売り上げは(例年の)半分以下です」と声を絞り出した。

 本来なら店内には、テレビで野球を見ながらビールを手に一喜一憂する客が詰めかけているはずだった。四谷という場所柄、神宮や東京ドームでの観戦後に訪れるファンも多い。それが…。オープンは1986年。縁があって漫画家・水島新司氏(80)の草野球チーム「ボッツ」でプレーする機会があり、主人公・景浦安武が活躍する同氏の人気漫画「あぶさん」から店名を付けた。

 もちろん、石井さんも大の野球ファン。延岡工では内野手として甲子園を目指し、同校の後輩であるオリックス・福良淳一GMは現役時代から何度も店に足を運んでくれている。「今年の春季キャンプも宮崎まで会いに行きました。昔はイチロー選手を連れてきてくれたこともありましたよ」。多くの野球好きが集い、笑い、敵味方なく杯を交わし合う。そんな日常の光景がなくなってしまったのが、今は何より寂しい。

 「僕自身も野球が大好きなんでね。早く野球が帰ってきて、みんなが(店に)帰ってきてくれれば…。それを待つしかない」。東京都では緊急事態宣言が発令され、今後は休業日が増える見通しだという。歓声が響くのはスタジアムだけではない。全国の至る所で、多くのファンが球音の復活を待ち望んでいる。(鈴木 勝巳)

 ▽居酒屋あぶさん 新宿区四谷3の12 サワノボリビルB1 (電)03(3341)2525 営業時間18~24時 日曜休

 ≪弁当通り 試合日に屋台&遠藤の店舗出店も…本来の姿なく≫東京メトロの外苑前駅から神宮球場へ向かう約200メートルの通りは、試合日に多くの屋台や沿道の店舗による出店があることから「弁当通り」とも呼ばれる。しかし、現在の「弁当通り」には本来の姿はない。試合がある日は弁当が100食以上売れていたという和食店は、売り上げが30%にダウン。今は出店する形での弁当販売は取りやめている。

 試合観戦帰りのファンを見込んでいる飲食店への影響も大きい。「Cafe&Bar FAB」は来客が7分の1に落ち、売り上げも前年比で、1日あたり約40万円の減収。山口慎一郎代表(48)は「心配して来店してくれる野球ファンの方もいる。今はそういった方たちと向き合える機会。終息すればV字回復だってある」と決して下を向かない。

 プロ野球に続き、大学野球も開幕が延期となった。週末の夕方、通りを歩いていた60代男性は「人通りが少ない今は季節感がない。野球はこの町の一つの文化なので」と話した。冬の低い売り上げを野球シーズンでカバーしている店舗が多いという「弁当通り」にも、かつてない逆風が吹いている。(柳内 遼平)

 ≪バッカス樋口さん「一日に早く、野球のある日常が戻ってほしい」≫池袋東口「バッカス」のオーナー・ 樋口昌純さん(47、写真)は「プロ野球がなくて、コロナの感染拡大。ダブルパンチです」。1951年オープンで店内は48席。4代目の樋口さんがスポーツ関係の居酒 屋に衣替えした。3月の3週目頃から客足が減り始め「3月の売り上げは去年の6割ぐらい。4月は5割いけばいい方」という。

 店内には、プロ野球各球団にちなんだ日本酒、焼酎のボトルが並べられている。客足が減ったことを知り、そのボトルを買って「お客さんに飲ませてあげて」という地方のファンもいるという。常連客にも「頑張ってね」と声を掛けられる。大型モニターに映るのは新型コロナウイルスのニュース。樋口さんは「一日も早く、野球のある日常が戻ってほしい」と願った。

 ▽居酒屋バッカス 豊島区南池袋1の27の8 サンパレスビルB1 (電)03(3985)5624 営業時間15~23時 日曜休

 ≪「球児園」山下オーナー「経営は本当に苦しい」≫「球児園」は高校野球ファンの山下健児さん(44)がオーナーを務め、昨年3月にオープン。3日には常連客と一緒に「あぶさん」を訪れ、「経営は本当に苦しい」と吐露した。店内には各高校のユニホームがズラリと飾られ、甲子園の大会期間中は朝から営業。第1試合からテレビで流し、ファンと一緒に盛り上がるという。しかし今春のセンバツは中止に。山下さんは「本当にショックです」と話した。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、店は当面12日まで休業予定。

 ▽高校野球酒場球児園 千代田区鍛冶町1の9の11 石川COビルB1 (電)03(5577)5594 営業時間16時~23時30分(平日)無休

続きを表示

この記事のフォト

2020年4月8日のニュース