【内田雅也の追球】道頓堀川に映る「将来」――阪神1、2年目の若手が見せた可能性

[ 2020年3月16日 08:00 ]

オープン戦   阪神6―4オリックス ( 2020年3月15日    京セラD )

映画「道頓堀川」で邦彦が絵に描いていた大黒橋からの眺め
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 大阪・ミナミの歓楽街を貫いて流れる道頓堀川は京セラドーム大阪の前で木津川と合流し、尻無川と名前を変えて大阪湾に注ぐ。  そうか、道頓堀川かと気づいて、歩いてみたくなった。試合前、ドームを抜け出して川沿いを行き、半時間ほどかけて難波まで歩いた。

 大黒橋に立った。映画『道頓堀川』(1982年、監督・深作欣二)の冒頭シーンを思う。美大に通う邦彦(真田広之)が早朝、絵を描いていた場所だ。愛犬・小太郎を追いかけてきた小料理屋のママ、まち子(松坂慶子)と出会う。

 「本職の絵描きさん?」とまち子が問いかける。「そやったらええけど。タマゴや」「タマゴっ!? 大きなタマゴやね」と笑い合う。まち子は「そや、ええもんあげよ」と好物のレモンを邦彦の手に握らせるのだ。

 まち子は19歳という邦彦の若さに憧れていた。後に年齢を聞かれ「邦ちゃんと一緒や」とごまかし「ほんまは7つも上や……それに足すことの3や」と打ち明ける。「邦ちゃんはええなあ。若いし、将来があるし」

 若さは素晴らしい。まだ何者でもないが、何にでもなれる。そんな可能性が広がっている。

 15日の阪神は若さ弾ける試合だった。首脳陣は若手に経験を積ませる試合と位置付けていた。外国人やベテランをベンチから外し、1、2年目の若手を使った。彼らは見事に応えた。

 育成ドラフトで入った新人・小野寺暖(大商大)は強振も、二塁走者として左飛で三進を狙って憤死した暴走も自分を見てほしいとの意気が感じられた。ドラフト6位入団の小川一平(東海大九州)はフォークを織り交ぜ、最後はいずれも速球で3つのアウトを奪った。2年目の小幡竜平は2三振に失策もしたが、5個の打球をさばいた。

 両軍合わせ17四死球、4失策という、荒れた試合のなかで、目に留まるはつらつさがあった。もちろん、即1軍というわけではない。だが、1日だけの1軍でも今後の糧となる。

 まち子の「将来があるし」に邦彦は「そんなもん……。ただ、おんなじ時間が延々と続いてるだけや」と反発する。毎日練習していれば、マンネリを感じ、将来を不安に思う時もあるだろう。それも若さである。

 七十二候は15日から「菜虫化蝶」(なむしちょうとなる)。アオムシが羽化してモンシロチョウとなるころである。若手たちもどんなに化けるか分からない。

 川面には夜、ネオンが映り輝く。邦彦が働く喫茶店のマスターが言う。「俺はなァ、頑張ってる若いやつを見るのんが好きや。大望を抱いているやつが好きなんや」。そんな好感を抱ける試合だった。=敬称略=(編集委員)

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