【内田雅也の追球】「奇跡」へ「鏡」の中の「笑顔」――阪神変革への鍵

[ 2019年10月13日 08:00 ]

笑顔の矢野監督
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 英語の「奇跡」(miracle)と「笑顔」(smile)の語源は同じだという。いずれも元はラテン語mirusで「不思議なくらい、すばらしい」といった意味だそうだ。mirに「驚く」という意味がある。

 笑顔は奇跡につながっているわけだ。笑えば、奇跡も起きるということか。

 今の阪神である。

 監督・矢野燿大のガッツポーズや笑顔に引きずられ、全員が笑顔を浮かべる。この笑顔がレギュラーシーズン終盤で奇跡と呼ばれた逆転でのクライマックスシリーズ(CS)進出を呼び、ファーストステージ突破につながったのかもしれない。

 ファイナルステージは1勝3敗と崖っぷちに立つ。窮地に追い込まれながら、矢野はベンチで笑い、こぶしを突き上げている。「苦しい時こそ、楽しもう」と呼びかけている。

 さらに「奇跡」「笑顔」に加え「鏡」(mirror)も同じ語源なのだという。

 コピーライター・作家、ひすいこたろうの『3秒でハッピーになる名言セラピー 英語でしあわせ編』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)にあった。

 <では、ここで、鏡の前に行って、ニッコリ笑って鏡をのぞいてみてください。誰が映って見えますか?><その鏡に映っている人こそ、あなたの人生を変えてくれる人物です>。

 つまり自分である。

 同書ではマイケル・ジャクソンの代表曲『マン・イン・ザ・ミラー』の歌詞を引用している。

 <鏡の中の男に呼びかけるんだ 生き方を改めようと (中略) 世の中を良くしたいなら 自分を見つめて 変わることさ>

 阪神に変革をもたらした星野仙一も2003年、優勝直後に出した著書『夢 命を懸けたV達成への647日』(角川書店)で<大事なのはYOU、おまえや>と選手やフロントを鼓舞した経緯を書いた。星野が変えたのは各人の意識だ。矢野が行っているのも手法こそ異なるが、各人の意識改革なのだろう。共通しているのは、選手への信頼である。各人の可能性を信じていたのだ。

 ひすいこたろうには「予祝」の効果を著した『前祝いの法則』(フォレスト出版)の著書もある。今季は3位で終わったが、矢野は今もひそかに「優勝する」と断言している。近い将来、いつかは勝つという意味だろう。このように予祝を実践する矢野は今春からひすいこたろうとも交流している。

 先の書にはまとめとして、こうあった。

 <「奇跡」は「鏡」に映る「笑顔」のあなたから始まります>。

 台風で試合は中止となり、ホテルで過ごした一日だった。猛虎たちは、鏡の中の自分に笑いかけたことだろう。それが奇跡の扉を開く鍵である。=敬称略=(編集委員)

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2019年10月13日のニュース