【内田雅也の追球】成長と強みの守備力――流れ引き寄せた阪神の併殺

[ 2019年8月25日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神7-4ヤクルト ( 2019年8月24日    神宮 )

2回1死一塁、村上を一ゴロ併殺打に打ち取った西勇輝(一塁走者・雄平)(撮影・大森 寛明)
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 阪神が流れをつかんだのは一つの併殺である。

 先発・西勇輝が珍しく3点を失い、逆転を許した3回裏。なお1死一、三塁で4番ウラディミール・バレンティンというピンチだった。

 西は内角低め、ひざ元にシュートを3連投し、三ゴロに切った。難しいバウンドをさばいた大山悠輔から糸原健斗、そしてジェフリー・マルテと素早い転送で、併殺を完成させたのだ。

 追加点を防ぎ、ピンチを併殺で脱出し直後の4回表に5安打集中で逆転したのだった。ピンチの後にチャンスあり、である。

 もう何度か書いてきたが、阪神の併殺数はセ・リーグ最多である。この夜は2回裏1死一塁でも一ゴロをさばいたマルテがまず一塁を踏み、二塁送球で一塁走者を挟殺にした。リバースフォースダブルプレーを奪っている。今季の併殺数は115個となった。

 要因の一つとして内野守備走塁コーチ・久慈照嘉は「投手陣が低めを突いて、よくゴロを打たせてくれている」と話している。セイバーメトリクス的な成績に投手の「ゴロ率」がある。打球をゴロ、フライで分けた比率である。野球の統計を扱うデルタグラフ社のツイートに、8月10日時点の数字があり、阪神投手陣のゴロ率は12球団最高の53・4%だった。藤川球児や岩崎優のような「フライ投手」もいるが、青柳晃洋、高橋遥人、岩田稔、ラファエル・ドリスらゴロ率50%超の「ゴロ投手」が多い。

 一方、これまた何度か書いたが、失策数もリーグ最多で92個にのぼる。

 ただし、守備は日増しに向上してきているのは確かだ。今季の月別失策数を並べてみる。

 月  試合 失策
3.4  28 21
 5  25 20
 6  22 25
 7  22 17
 8  21 9
 (8月は24日現在)

 梅雨明けを待っていたかのように、7月から8月と格段に減ってきているではないか。特に今月はまだ1ケタの9個。甲子園球場が高校野球開催中で使えず、21試合中、人工芝球場で17試合行っているという点を考慮しても進歩は明らかである。

 連日、守備担当のコーチがノックを打ち、選手たちは汗を流してきた。シーズンは長い。選手育成とは、春に種をまき、梅雨や日照りや暴風や……を心配しながら、育てる農業に似る。日々、選手は成長しているのだ。

 阪神恒例の夏の長旅の終わりに5連勝し、逆転でのクライマックスシリーズ(CS)進出に向け、勝負の秋を迎える。

 「強みの上に築け」とピーター・ドラッカーの名言にある。今の阪神で言えば「強み」は自慢の投手陣だ。この投手を支える守備力がカギを握っている。 =敬称略=(編集委員)

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