【内田雅也の追球】「テキサス」生む「真剣」――阪神、折り返し点で再認識した教訓

[ 2019年6月23日 09:00 ]

交流戦   阪神6―2西武 ( 2019年6月22日    甲子園 )

<神・西>4回、1死三塁、糸井の打球は、外崎(左)と秋山の間に落ちる適時打になる (撮影・成瀬 徹)
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 飛球が内野手の頭を越えて、外野手の前に落ちる安打を「テキサス・ヒット」「テキサス・リーガーズ・ヒット」、単に「テキサス・リーガー」と呼ぶ。米俗語で「ブルーパー」、日本語で「ポテンヒット」のことだ。

 『野球米語の語源』として、1956(昭和31)年8月1日発行の雑誌『野球界』(博友社)に説明があった。<そのテキサス・リーグからの新人アーサー・サンデーが専ら此(こ)の打法で1889年、トレドのチームで・389の打率をあげ、語源となっている>。

 米書『ディクソン・ベースボール・ディクショナリー』にも同じ記述がある。ただし打率は・398と微妙に違っているのはさておく。トレドは米オハイオ州にある都市で、19世紀当時、ブラックパイレーツというメジャーリーグの球団があった。

 スコアをつける際、テキサス・ヒットには「T」を添えるようにしている。小学生のころ使っていたSO社発行のスコアブックに「T」の説明があり、習慣になった。

 手もとのスコアで、阪神は「T」付きの安打が3本あった。いずれも効果的なテキサス・ヒットで、西武先発の本田圭佑攻略に役だった。

 0―2から逆転した4回裏、1死三塁から糸井嘉男の飛球は中堅前に落ちた。続く大山悠輔の飛球は右翼線に上がり、一、二塁、右翼手の間に落ちる二塁打となった。ジェフリー・マルテの逆転打につながったのだ。

 追加点の口火を切った5回裏先頭、高山俊の右前打も「T」付きだ。

 幸運だったのか。西武野手陣が慣れない甲子園特有の浜風に戸惑った面はあるだろう。

 <単なる当たり損ねの幸運なヒットではない>と「打撃の神様」川上哲治(巨人)が著書『遺言』(文春文庫)に書いている。ポテン打が多く、現役時代の一時期「テキサスの哲」と呼ばれた。

 詰まっても、食い込まれても<押し返す力がスイングにある>というわけだ。さらに<運をいったら人間は進歩しない。本当に運をよくしようと考えたら、とことん努力をすべきだろう>。

 糸井はひざ元ボール球カッターに食い込まれながら運んだ。大山は速球を押し込んだ。高山も内角カッターを体の回転で二塁頭上を越えさせた。

 川上は監督となり9連覇を達成する。先の書には選手たちに<運とは自分で運ぶもの、真剣にやれば幸運を呼ぶ>と言い続けてきたとあった。

 今の猛虎たちにも通じている。阪神は今季72試合目だった。ペナントレース折り返し点で再認識したのは努力と真剣という、古今東西変わらぬ教訓だった。=敬称略=(編集委員)

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2019年6月23日のニュース