いつかは「真のエース」へ…「オリックスの千賀」目指す育成出身の榊原

[ 2019年5月14日 14:38 ]

オリックス・榊原翼
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 オリックスの次世代スターを発掘する当コラム。第15回目は榊原翼投手を取り上げる。

 ここ最近、榊原はチームメートから「エース」と茶化される。その度に本人は困った顔をするが、大きな新芽の中に、きれいなつぼみが見え隠れする。「定着したいので、もっと納得のいく成績を出したい。自分に合格は与えなくないです」。そう話したのは、5月8日の日本ハム戦で8回3安打1失点に抑え“完投負け”した翌日のことだった。

 安定感は「エース級」と言える。4月7日の楽天戦から始まり、ここ5試合でクオリティースタート(QS=6回以上、自責点3以下)を達成。ちなみに、QSを上回るハイクオリティースタート(HQS=7回以上、自責点2以下)もメジャーでは主流だが、榊原はここ3試合でHQSも達成している。「QSは目標にしています。良い緊張感で投げられていると思う」。今季6試合中、5試合で先発投手としての役割を果たしたことになる。

 きっかけは、唯一こけた自身の初登板だった。念願の開幕ローテーション入りを果たし、3月31日の日本ハム戦で立ったマウンドは、見たことのない景色だった。「開幕戦は、みんなの予想通りだったと思います。ガチガチで、5回もたなかった。立ち上がりで1球もストライクが入らないし、勝負にいけていない自分がいた。その悔しさはあります。変わった部分を見せたい」。5回途中3失点で敗戦投手。居心地の悪いベンチで、肩をすぼめたのがスタートとなった。

 その日から、ずっと「いつ2軍に落とされるのだろう」と、おびえる日々が続いた。捕手の若月や、「師匠」と慕う山岡に助言をもらったり、映像を見返して自問自答したり…。しかし、ある時にふと「QS」の指標を再確認して、気がついた。6回3失点でも良いんだ――。完ぺきさを追い求めるがゆえに、マウンドで切り替えができない自分がいたことに気がついた。それ以来「自分の中で少し余裕が生まれた」という。

 開幕戦から毎試合事に防御率は下がり、気がつけば「2・09」まで良化した。5月13日現在では、リーグ5位。規定投球回に到達している投手では、唯一の被本塁打0だ。開幕戦で多少荒れていた直球は、高めにいくほど打者が嫌がり、おかげでカーブにはタイミングが合わない。低めに決まりだした直球と、フォークのコンビネーションで打者を翻弄する。持ち味を存分にいかす投球が今はまっている。

 キャンプ中は想像もできなかったことだ。

 「距離を取ろうとしている」。「タイミングがずれているぞ」。「考えすぎじゃないか」。

 山岡とキャッチボールをする度に様々な指摘を受けた。「師匠には隠せません。『悩んでいるのが、すぐ分かる』『縮こまっているぞ』って言われます。でも、こんなにアドバイスを頂いて、いいのかなと思います。野球は個人スポーツのところもあるじゃないですか」。おかげで、その助言1つ1つが今は経験という武器になった。ここまで成長スピードを加速させたのは、「エース」山岡の助言だったとも言える。

 同い年の山本由伸とは、ひんぱんに食事を共にする間柄だ。「この先、どうなりたい?」。テーブルに向かい合い、そんな夢をお互いに語り合う。榊原の目標は「1戦1戦、成長していく姿を見せたい」。それと同時に「自分の中で借金はつくりたくない」と話す。ここまで1勝3敗。2つの借金返済が、当面の目標になっている。

 あこがれはソフトバンクの千賀だ。同じ育成選手から、球界を代表するエースになった。いつかは自分も「エース」に。その思いを胸に、翼を広げて飛び立とうとしている。(当コラムはスポニチホームページで不定期連載中)

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