【和歌山】“皆勤校”の古豪・桐蔭、シード校をコールド撃破 トリック走塁の三重盗も決まった!

[ 2018年7月15日 19:15 ]

第100回全国高校野球選手権記念和歌山大会 2回戦   桐蔭10―1初芝橋本=7回コールド ( 2018年7月15日    紀三井寺 )

<桐蔭・初芝橋本>6回2死満塁、二塁けん制の間に三塁走者・蔵道が本塁を突き生還、5点目を挙げる。打者・北浦、捕手・氏田、球審・中島
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 三塁走者の蔵道樹生(3年)は「あるな」と予感していた。4―0とリードしていた6回表、2死満塁。もう1点、追加点がほしい場面だった。

 「二塁走者の動きを見ていたら“やるな”と思った」

 二塁走者・水谷優太(2年)が油断したかのように大きなリードを取っていた。マウンドの初芝橋本の左腕・北山諒明(3年)が二塁方向を振り向いてけん制を放る瞬間、蔵道は猛然と本塁に突入、ボールは投手―遊撃手―捕手と渡ったが、楽々生還できた。だめ押しとなる5点目をもぎ取ったのは、見事なトリック走塁だった。

 記録は本盗。残る2人の走者もそれぞれ進塁しており、三重盗となった。

 「サインはサインなんですけど……。あの時“あるな”と思ったんです」。チームの機密事項だけに蔵道も詳しくは話せない。「いやあ、練習はしていたんですけど、こんなにきれいに決まったこと、あまりありません」。大舞台での成功に照れ笑いを浮かべた。

 「うまく決めてくれました」と伊藤将監督(38)も選手たちをたたえた。昨年春の選抜で、高崎健康福祉大高崎(健大高崎)が1点を追う9回裏、2死二、三塁で、このトリック走塁(本盗)を成功させ同点に追いついた。この動画をもとに「オレたちもやってみるか」と選手たちとともに練習を積んできたそうだ。

 「毎年、甲子園に行く可能性を高めるために、チームの個性に応じて指導している。今年は打撃のチーム」と伊藤監督は言う。

 ただし、単に打つだけではない。たとえば1回表1死一、三塁では4番・池谷涼(3年)の詰まった二ゴロの間に三塁走者が還ったもの。伊藤監督は「追い込まれたら逆方向、という意識を徹底していたからあのゴロになった」と評価する。阪神・金本監督が現役時代に心がけた「追い込まれたらボテボテ」である。強引に引っ張って内野ゴロ併殺という最悪の結果を回避し、先取点を奪ったのだ。

 4回表は連続四球から蔵道が適時打、5回表は再び内野ゴロの間に加点した。7回表には集中打で5点を奪い、7回コールドを決めた。

 相手の初芝橋本は春の和歌山大会4強のシード校。強力打線との前評判だった。

 「長打力のある打者が並んでいる」と警戒していたエースの右腕・坂上昴汰(3年)は「とにかく低め低めを突くように心がけた」と大きめのスライダーや鋭いカットボールを低めに集めた。

 昨年夏までは捕手。新チームから投手に転向した坂上は「たった1年でもの凄い投手になれるはずがない。僕は打たせて取る投球でいこうと思っていました」と力みもなく、スイスイと1失点で完投した。

 桐蔭は旧制・和歌山中時代の第1回大会(1915年)から一度も休まず予選に出場し続ける“皆勤校”。春夏通算36度の全国大会出場を誇る。

 100回大会という大きな節目に、古豪としての戦いぶりは注目が集まっている。伊藤監督はそんな伝統を踏まえたうえで、試合前、選手たちに語りかけた。「今年もまた皆のおかげでこうして夏の大会に出られる。先輩たちから100回もつないできてくれたんだ。ありがとう」

 そして、この伝統を重圧ではなく喜びに変えようと訴えた。

 「周囲の期待や思い入れを感じることもあるだろう。自分たちはそれを喜びに変えてやっていこうじゃないか」

 なるほど、重圧ではなく喜び。これも伝統校の力かもしれない。 (内田 雅也)

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