「非常識にもチャレンジ」が生んだ松坂の投球術

[ 2018年6月12日 10:00 ]

柳田を空振り三振に抑え、グラブを叩く松坂(撮影・椎名 航)
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 短所を長所に変える。非常識にもチャレンジする。そんなことをずっと前から中日の松坂大輔投手は考えていた。実際「常識、非常識の線引きは歴史が決めたもの。自分はその線引きはしない」と話したことがある。3勝3敗、防御率2・41。今季、復活した姿を見せてくれている右腕の考え方のいくつかエピソードを紹介したい。

 (1)逆球をフル活用。

 西武時代から話していたことは「狙ったコースとは逆に行く逆球は、その球自体は意味のないものが多い。だけど、その1球を打たれなければ、次に生かせる」。制球力がない投手には参考にしてほしい言葉。もし、捕手の構えたところに行かなくても、ストレスはためない。09年の第2回WBCの2次ラウンド、キューバ戦では相手のベンチから内外角の投球に対する声の指示を見抜き、捕手の城島と話し合った上で、あえて構えたミットの逆のコースに投げて無失点に封じたことは有名な話だ。

 (2)点差が開いたら実験

 試合が決した時には必ず何かを試した。「打者の強いコースから少し動く球を投げる。打たれてもいい。打たれたら、自分の中で“やってはいけないこと”の線引きができる。逆に変な反応をしてくれたら、打ち取る選択肢が増える。ヒントがどこに隠れているかは分からない」。メジャー時代には、あえて相手の待っているコースに投げたこともある。

 (3)苦しい時も、引き出しを全開にしない。

 「1試合の中で“ここがポイント”という時はありますが、そこで全てを出したら、先はない。次の試合でも対戦がある。常に“何か”は取っておかないと」。左打者の内角のボールゾーンからストライクになるシュートは最近になってようやく使い出した。右打者の内角へのシュートはいまだ、ほとんど投げていない。すべてを開放していない。

 ここまで、9イニング平均の与四死球は6個を越える。球数を要しても、ピンチを背負っても、最後の1本を許さなければいい。「技巧派にうまく転身した」との意見もあるが、松坂はプロに入った頃から目に見えない“遊び”を入れ、来たるべき時に備えていた。

 若手にアドバイスを送る時に言うことがある。「自分で考えて試してみることが大事」。トライ&エラーがあってこそ、体に染みこませることができる。はるか昔から松坂は“来たるべき時”に向けた準備をしてきた。(記者コラム・倉橋 憲史)

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