「ハサミ」が生むパワー〜阪神・ロサリオの特徴的な右足

２月２７日、紅白戦の５回表１死満塁、右犠飛を放つ紅組・ロサリオ
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　【内田雅也の広角追球】その打法は「ハサミ」と名づけられた。大リーグでは「シザーリング」「シザーズ・スイング」などと呼ばれている。シザーは英語でハサミだ。

　昨年のア・リーグのレギュラーシーズン、そしてワールドシリーズのＭＶＰ、ホセ・アルトゥーベ（アストロズ）の打撃フォームである。

　とりわけ、投球をバットがとらえるインパクトから後ろ足（日本では軸足）と呼ぶ右足が後方に動くのが特徴である。ステップの際に踏み込む前足（左足）と交差する動きがハサミのようで、その名がついた。

　アルトゥーベは４年連続最多安打、２年連続首位打者を獲得。それ以上に１メートル６７という小さな体で２年連続本塁打２４本を記録した。「パワーの源は何か？」と注目された。

　大リーグ機構（ＭＬＢ）専門テレビ・チャンネル、ＭＬＢネットワークが昨年７月１日、この「ハサミ打法」のビデオをインターネット上で公開した。アルトゥーベ自身が打法を解説している。

　「前足を踏み込み、後ろ足とキックバックしてクロスさせるんだ。僕の中の最高打者、ミゲル・カブレラをまねて２年前から採り入れると、打球が飛ぶようになった。今はもっとボールに力をかけられるように工夫しているところだ」

　聞き手はＭＬＢネットワークの解説者で、元アスレチックス、マリナーズ外野手のエリック・バーンズ。アスレチックス時代の同僚だった阪神ＯＢの藪恵壹が「こんな打法のビデオがありますよ」と、公開直後に教えてくれていた。

　ビデオではそのカブレラ（タイガース）の打撃フォームも紹介。ほかにマイク・トラウト（エンゼルス）ら強打者も「ハサミ打法」だ。

　２月の沖縄・宜野座でのキャンプ中から注目していたのだが、阪神新外国人ウィリン・ロサリオがまさに「ハサミ」なのだ。あの右足がパワーを生んでいる。

　日本で井端弘和（元中日、巨人）や宮本慎也（元ヤクルト）が右方向に打とうとする際、右足を引いて狙う。ただ、アルトゥーベらは右方向への短打狙いではなく、引っ張って長打を打つ際も右足を蹴り返して（キックバック）、打球に力を伝えているようだ。

　ただ、キャンプや練習試合で特大弾を放っていたロサリオもオープン戦に入ると、結果が出なくなった。このため「右足が引けるのが気になる」「あれでは外角球に届かない」「軸足が動くのは問題」……といった「ハサミ」を悪癖ととらえた論評を見聞きするようになった。

　確かに、３月３日ソフトバンク戦（ヤフオク）や６日ＤｅＮＡ戦（甲子園）での空振り三振は外角スライダーなど変化球だった。

　だが、空振りとハサミの右足は無関係ではないだろうか。ボールになる変化球を追いかけた結果ではないだろうか。

　ロサリオが韓国・ハンファ入りした２０１６年、打撃コーチ・正田耕三（現ＫＩＡ打撃コーチ）が４月に本塁打１本に終わった不調を受けて助言したのが「外角低めは辛抱しろ。見逃し三振で構わない」だったそうだ。すると５月に１０本塁打を放ち、打撃開眼となった。２月、宜野座で会った時に話していた。

　逆に、９日の中日戦（甲子園）では高めボール球直球に手を出しての凡打が続いた後、初球チェンジアップを打ち上げた。外角変化球を意識しての悪循環に映った。

　悩める状況だが、「ハサミ」はロサリオの長所のはずだ。あの右足を修正しては打撃が根本から崩れてしまう危険性がある。９日の試合後、ヘッド兼打撃コーチ・片岡篤史に「ハサミ」の話をしたうえで聞いた。

　「彼はそれで今までやってきています。楽天戦（２月１６日・宜野座）でホームラン打った時も右足が引けてましたから。もう少しみてみたいと思います」

　修正はせず静観の構えでいた。ティー打撃を行う際、極端に短いバットを使ったり、イスに座ったままだったり、両足にチューブを巻いて打ったり……と練習では多くの工夫をしている。日本人投手の配球のメモを取ったりして研究熱心でもある。

　１０日の中日戦（甲子園）では左前へオープン戦初となる適時打も放った。本領発揮の兆しは見え始めている。

　従来、打撃では軸足（後ろ足）は固定して打つ……というのが常道だった。「ハサミ」はある意味、常識を覆す打法である。日本球界でも「ハサミ」が威力を発揮する時が訪れるのを楽しみにしている。＝敬称略＝（編集委員）

　◆内田　雅也（うちた・まさや）　１９６３（昭和３８）年２月、和歌山市生まれ。桐蔭高（旧制・和歌山中）時代はノーコンの“怪腕”。慶大文学部卒。８５年４月入社。アマ野球、近鉄、阪神などを担当。デスク、ニューヨーク支局を経て２００３年から編集委員（現職）。大阪紙面のコラム『内田雅也の追球』は１２年目を迎えた。