「ON以外には…」星野氏が何度も頭を下げたある場面

[ 2018年1月26日 09:50 ]

昨年12月、自身の野球殿堂入りを祝う会で王貞治氏とガッチリ握手をする星野仙一氏
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 年明け4日に膵臓(すいぞう)がんで死去した星野仙一氏。記者は12年から14年まで楽天担当として近くで取材した。中日での現役時代は巨人の王、長嶋を抑えることに燃えた男。毎日のように開かれた「お茶会」でも2人の話題になることが多かった。誰より尊敬の念は強く「俺はON(王、長嶋)以外に頭は下げん」とまで言っていたほど。今回の訃報に接して「闘将」と呼ばれた男が深々と頭を下げていた、ある場面を思い出した。

 宿敵の巨人を下して日本一に輝いた13年から一転、持病の腰痛が悪化して3年契約1年目ながら監督退任が決まっていた14年の10月上旬。札幌市内で昼食をともにした。途中、星野氏の携帯電話に着信が。いつものようにゆっくりとした動作で電話を耳に当てて「なんや?」と話し出すかと思いきやサッと立ち上がり、部屋を仕切るために置かれたパーテーションの裏に消えた。会話の声は聞こえなかったが、記者が座っていた位置からは少しだけ様子が分かった。目を疑った。今にも泣き出しそうな安どの表情を浮かべ、誰かが目の前にいるかのように何度も頭を下げていたからだ。

 数日後、同年まで楽天でコーチを務めていた2人が翌15年からソフトバンクに入団するというニュースが流れた。点と点がつながった。あの時、2人の再就職先を探していた星野氏にソフトバンクの王会長から「OK」の連絡が入ったのだろう。数年後、星野氏に「あの時の電話の相手は王さんですよね?」と確認してみると、返事は「忘れたわ」。ニヤリと笑った表情が「答え」だった。

 星野氏は鬼軍曹というイメージが強かったが、常にコーチへの感謝の念を持っていた。かつては鉄拳制裁が代名詞だった闘将も「今の若い選手は怒ると萎縮してしまう」と話すなど時代とともに指導法も変え、楽天時代はあえて選手に聞こえるように担当コーチを怒ることで奮起を促した。だからこそ「自分の下で働いてくれたコーチは食いっぱぐれさせない」という思いは強く、退団するコーチや関係者の再就職先の斡旋にも奔走した。

 指揮を執った3チームで計4度のリーグ優勝。こんな男気あふれるトップがいれば、チームがまとまらないはずがない。 (記者コラム・山田忠範)

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