続・野球をやるほど今の子供は暇じゃない?

[ 2017年12月30日 09:40 ]

27日から行われた「NPB12球団ジュニアトーナメント」
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 【君島圭介のスポーツと人間】高校野球の取材をしていると、他県の強豪校に所属する選手の名を挙げて、「○○と対戦するのが楽しみ」という声を聞く。少年野球やボーイズリーグでチームメートだったという。越境入学を否定はしない。むしろ選手が自由に学校を選べることは素晴らしいと思う。

 気になるのは「野球の世界が狭くなった」ということ。プロ野球でも小中学生の頃から知り合いだった選手は多い。

 年末に恒例の「NPB12球団ジュニアトーナメント」が開催された。13回目の今大会には天才スラッガー、清原和博氏の次男が巨人ジュニアの主力として出場して話題になった。ジュニアチームは地域貢献を目的としたアカデミーや野球教室で目立った選手などから各球団が編成する。彼らの多くは高校野球の名門校に進学し、過去には日本ハム・近藤健介(ロッテジュニア)、楽天・松井裕樹(横浜ジュニア)、森友哉(オリックスジュニア)ら30人のプロ選手が生まれている。

 野球界も一貫した育成制度が整った――と、喜んでばかりはいられない。エリート養成システムが構築されたということは、子供が途中参入しにくい構造になってしまった証拠でもある。

 それは、すべての競技に共通する。あるスポーツチームに加入した小学2年生がコーチに「始めるのは遅いけど、まだ頑張れば間に合うから」と励まされたという。8歳では遅い。今や5、6歳から始めなければ、その年代に応じた全国レベルの技能を身に付けるのが困難な時代だ。なるほど、世界で活躍するアスリートが増えるはずだ。

 スポーツ少年団の野球チーム数が最近10年で30%以上も減少したという。一方で選手人口を増やす競技も多い。ほとんどは個人競技だ。少子化を「親が増えた」と言い換えることも出来る。総数ではない。相対的に、だ。大人が手取り足取り子供の面倒を見ることが出来るようになった。週末にスポーツ施設をのぞけば、グラウンドで、プールで、テニスコートで、親が子をマンツーマン指導する姿が溢れている。チームやクラブの人間関係に煩(わずら)わされる必要もない。

 かつて野球には子供(主に男子だが)のコミュニケーションツールの側面と地域の一体化の役割があった。私自身、小学生時代はサッカー少年団に所属していたが、暇があれば野球をして遊んだ。夏休みには町内会で結成する野球チームに参加し、市町村レベルの大規模なトーナメントにも参加した。

 野球は特別な存在だった。子供には今より時間があり、遊ぶ場所も豊富だった。収穫の終わった田んぼで泥だらけのボールを一緒に追った友人は、のちに県の代表として夏の甲子園でホームランを放った。

 野球のエリート制度――。それは競技レベルの引き上げには役に立つ。だが、おかげで野球は特別な存在ではなくなるだろう。世界で活躍する子供たちが増える一方で、失ってしまった風景もある。野球が子供の受け皿であった時代は終わってしまうのだろうか。(専門委員)

 ◆君島 圭介(きみしま・けいすけ)1968年6月29日、福島県生まれ。東京五輪男子マラソン銅メダリストの円谷幸吉は高校の大先輩。学生時代からスポーツ紙で原稿運びのアルバイトを始め、スポーツ報道との関わりは四半世紀を超える。現在はプロ野球遊軍記者。サッカー、ボクシング、マリンスポーツなど広い取材経験が宝。

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2017年12月30日のニュース