野球をやるほど今の子供は暇じゃない?

[ 2017年12月24日 10:45 ]

セーフのゼスチャーをするスジーワ・ウィジャヤナーヤカ塁審
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 【君島圭介のスポーツと人間】思い返せば少年時代は時間をもてあましていた。テレビゲームはもちろん、一般的な家庭にはビデオもなかった。家でゴロゴロと漫画を読んでいると、母親に「外で遊んで来なさい!」と追い出された。

 子供は外で遊ぶのが常識だった。友達を探しに小学校の校庭に向かえば必ず誰かいた。5人もいれば近所の家にあと1人探しにいった。

 サザエさんで有名な「カツオ、野球やろうぜ!」の一場面を思い出して欲しい。6人集まれば3対3でハンドベースが出来る(ゴムボールを手で打つ即席ゲーム)。文科省と日本野球機構(NPB)が合同で指導する「ベースボール型授業」など、子供が工夫して作り出した遊びだった。

 スポーツ少年団の野球チーム数は最近10年で30%以上も減少。その煽りを受け、中学校体育連盟に加盟する男子軟式野球部の生徒数も07年の約30万人から16年には約18万人に減少したという。

 ほぼ無給の指導者とグラウンドを確保し、保護者は早朝から「お茶番」をこなす。子供は全身野球のユニホーム一式に着替えなければいけない。野球の練習には親も子も半日を要する。今の子供は忙しいが、親はもっと忙しい。例えば水泳教室。行けば専任コーチと温水プールが待っていて、時間通りに始まり、時間通りに終わる。ああ、野球は分が悪い。

 少子化だから仕方ない――。そうだろうか。サッカーやバスケットボール、陸上、テニス、バドミントン、卓球などは増加、悪くても横ばいの傾向にある。野球だけが競技人口を減らし続ける。

 第87回選抜高校野球大会にスリランカ人の審判が出場して話題となった。スジーワ・ウィジャヤナーヤカさんは留学した立命館アジア太平洋大在学中に野球の審判員になることを志した。夢は母国に野球を普及すること。その理由を聞いた。

 「野球というスポーツの魅力が一番だが、国のためでもある。スリランカの人気スポーツはクリケットだが、何日も試合が続くことがある。それをスリランカの人々は仕事もしないで一日中眺めている。生産性を上げるためには、より短時間で試合が終わる野球を普及させる必要があります」

 子供の野球はのどかなもので、守備中に見上げた夏空に飛行機雲を発見したり、赤とんぼの襲来に秋の訪れを感じたり。誰かが「帰る」と言い出すまで時間は永遠にあると信じていた。地域や時代で流れる時間は速度を変えるのだろうか。

 米国ではNFLを「THE WAR」、NBAを「THE GAME」と称する。アメフットやバスケットの競技性をよく表わしている。それに対し、MLBは「NATIONAL PASTIME」。国民の娯楽――。日本野球機構(NPB)は公式戦の試合時間短縮に血道を上げる。来季から効率化のため、敬遠四球に申告制を導入する方針という。

 塾や習い事に振り回される今の子供たちを見て思う。この子たちのライフスタイルにはそもそも野球は合わないのだ、と。だけど、どうだろう。本当は子供たちには野球をやる暇くらいあった方がいいんじゃない?(専門委員)



 ◆君島 圭介(きみしま・けいすけ)1968年6月29日、福島県生まれ。東京五輪男子マラソン銅メダリストの円谷幸吉は高校の大先輩。学生時代からスポーツ紙で原稿運びのアルバイトを始め、スポーツ報道との関わりは四半世紀を超える。現在はプロ野球遊軍記者。サッカー、ボクシング、マリンスポーツなど広い取材経験が宝。

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