女子に求める「逆境力」――世界最強マドンナジャパンの選手像

[ 2017年11月28日 10:00 ]

激励に訪れた吉田義男氏(左)と話す女子野球日本代表・木戸克彦ヘッドコーチ(11月25日、履正社箕面グラウンド)
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 【内田雅也の広角追球】侍ジャパン女子代表(マドンナ・ジャパン)の橘田(きった)恵監督(34)は求める選手像について「ここに来ている選手たちは基本はある程度できているとみていますので」と前置きして答えた。

 「緊張している中で、どれだけのパフォーマンスを発揮できるか。ワールドカップでも一度失敗するとダメになってしまう子がいる。失敗はしてもいい。失敗した後、短時間でどういう風に対応していくのか、その辺を注目しています」

 11月25日、大阪・箕面市の履正社スポーツ専門学校北大阪校野球場で始まった日本代表のトライアウト。世界ランク1位、6連覇に挑む来年8月の世界野球ソフトボール連盟(WBSC)第8回女子野球ワールドカップ(W杯=米フロリダ)に出場する日本代表選手20人を選考する。

 書類と動画による1次選考を通過した96人のうち、この関西会場には42人がいた。高校生、大学生、クラブチームなど所属がバラバラの16歳から31歳が参加。朝、集まった時は緊張で表情が硬かったが、午前中に試合形式の守備練習などを行っていくうちに、ずいぶんとほぐれてきていた。

 橘田監督は昼食前に全員を集めたミーティングで「今は笑顔も見られますね」と話しかけた。「ワールドカップ本番も短い期間で、失敗を引きずってしまっては大会が終わってしまいます。失敗をどう取り返していくのか、というのも大切な要素です」。

 欲しい選手像、伝えたかったのは、この失敗への対応力なのだ。「こちらの狙いを詳しく言うと、選手たちはそこを見せにくる。その辺、女子はうまいですから。ですからミーティングではヒントだけを与えました」。なるほど、同性として女性のしたたかさ、抜け目なさをよく知っている。

 挫折に立ち向かう。失敗を取り返す。以前、当欄で書いた「バウンスバック」にも通じている。

 また、「レジリエンス」という心理学用語がある。逆境から立ち直る力のことで「精神的回復力」「復元力」「逆境力」などと訳される。

 一般に、必要な要素は次の4項目だという。

 (1)感情をコントロールする力…状況に一喜一憂しない。感情の起伏が激しいと、エネルギーを消耗し、諦めも早くなる。

 (2)自尊感情…課題に対して最初から無理と決めつけない。自分の力を過小評価しない。

 (3)自己効力感…失敗を繰り返しながらも、少しずつ成長していると感じられること。

 (4)楽観性…いつかできるだろうという考えを持つこと。

 橘田監督自身、レジリエンスが高いのだろう。彼女の野球人生は逆境との闘いだったと言える。

 小学生のころから軟式野球に親しみ、兵庫県立小野高時代は男子に混じって硬式野球部に所属。日本高校野球連盟(高野連)の規定で公式戦出場はかなわず、練習生の扱いだった。

 仙台大に進み、1年秋の新人戦で「9番・二塁手」で仙台六大学リーグ初の女性選手として公式戦出場を果たした。

 大学2年時にオーストラリア、3年時にアメリカへ野球留学。帰国後は花咲徳栄高(埼玉)女子硬式野球部、南九州短大(宮崎)で指導者となり、鹿屋体大(鹿児島)大学院でコーチング理論を学んだ。

 2012年、履正社医療スポーツ専門学校女子硬式野球部(履正社レクトビーナス)監督に就任し、13年には全国制覇。14年、履正社高女子硬式野球部監督兼務となり、今年4月、初の全国制覇に導いた。手腕が評価され、5月、女性として初めて日本代表監督に就いた。

 「自分では選手と年齢が近いと思っていますので、選手が質問しやすい、会話ができるチームにしたい。優しくなってしまいがちなので、同性としてどこまで厳しく追い込めるか」。そんな話をしていた後で、今秋新たにヘッドコーチに就任した阪神球団本部プロスカウト部長の木戸克彦さん(56)が「大丈夫。実にはっきりとすがすがしく物を言う。オレも怒られるから」話していた。

 トライアウトは東京会場でも54人が参加し12月2―3日に行われる。候補選手を約30人に絞り、来年の合宿(宮崎県日向市、高知県安芸市、新潟市など)を経て、女子プロ野球からの約5人も加わり、最終メンバー20人を決める。

 「日本の女子の最高峰ですから、この選考で落ちた選手たちも応援したくなるようなチームにしたい。また、世界に『日本のような野球をしたい』と思われる、魅力的で気持ちのよい野球を見せたい。あいさつや礼儀など、模範となりたい」

 歯切れの良いノック同様、何とも気持ちのいい。この指揮官の下ならば、逆境にも立ち向かい、世界で輝くマドンナたちが集うことだろう。

 何人か女子野球選手や元選手を知っているが、共通するのはおおらかですがすがしいことである。ベースボールを訳した中馬庚が「野でボールを追う」と、さわやかさを言葉にした原点が、女子野球に見えた気がした。 (編集委員)

 ◆内田 雅也(うちた・まさや) 1963年2月、和歌山市生まれ。桐蔭高(旧制・和歌山中)時代はノーコンの“怪腕”。慶大卒。1985年入社。2003年から編集委員(現職)。大阪紙面で主に阪神を書くコラム『内田雅也の追球』は11年目のシーズンを終えた。

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