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雨の甲子園球場で考えた――。スポーツは誰のもの?

<神・D>5回2死一塁、顔面付近の直球に仰け反り、バランスを崩し泥だらけになるDeNA筒香
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 【君島圭介のスポーツと人間】今年のクライマックスシリーズ(CS)で最も活躍を讃えられたのは内川でも筒香でもないだろう。降雨で泥沼と化した甲子園のグラウンドを整備した阪神園芸のグラウンドキーパーたちだった。

 雨に悩まされる競技は野球ばかりではない。テニスの専門誌「スマッシュ」12月号に興味深いレポートが掲載されていた。この秋、東京・有明で行われた楽天ジャパンオープンで試合中、突然の雨に見舞われ、コロシアムの開閉式屋根を閉じることになった。

 テニスツアーのルールでは15分以上の中断の場合は選手にウォーミングアップの時間が与えられる。雨に濡れた観客は寒い中で長い時間を待たせられる。運営側は屋根を閉じ、スタッフ総出でコートを12分で整備した。阪神園芸ばりの優秀さだ。ところが選手は再開前に3分間のウォーミングアップ時間が認められた。何故か。ツアールールは試合環境が変わった場合(このケースは閉じた屋根)は選手に再準備の時間を与えることを認めているからだ。

 プレーヤーファースト――。テニスの試合に限れば、コートに立つ選手が何より優先される。観客の1人が着席するまで審判は試合を止め、気になる音を立てる客にはマイクで注意を促す。15分ルールも含め、すべては選手に集中して最高のプレーをしてもらうための配慮だ。

 10月15日のセ・リーグCSファーストステージ・阪神―DeNA戦は「伝説」と化した。長年野球を見てきたが、あれ以上の壮絶な環境で行われた試合はない。だが、忘れてはいけないことがある。あのとき、両チームの選手たちはケガはもちろん、命の危険にもさらされていた。

 5回無死一塁の場面で、筒香は頭部付近を襲った投球に尻もちをついた。投球の瞬間、記者席で背筋が凍った。通常ではありえない抜け方だったからだ。筒香はうまく避けたが、ぬかるんだ打席で足をすべらせていたら……。思い出しても寒気がする。

 日本人最年長でボクシングの世界王者になった越本隆志氏(現Fukuokaジム会長)は防衛戦の直前に肩を大ケガしたが、リングに背を向けなかった。「今さら格好つけるわけではないですけど、対戦相手も待っているし、試合を必死で準備してくれた人たちもいる。チャンピオンが逃げるわけにはいかないんですよ」。のちに延期しなかった理由を尋ねると越本氏はそう答えた。

 越本氏は今でも肩のケガをベルトを失った言い訳にはしない。選手、ましてプロの世界で戦っているなら試合が始まれば全力を尽くす。結果が実力だ。だが、単発興行であるボクシングとは違い、予備日が用意されている野球には中止という選択肢があった。日程が消化できなかった場合はシーズン上位のチームが次のステージに進出するルールも決まっていた。

 雨中の阪神―DeNA戦が決行された是非は今後も議論すべきだろう。選手が「やりたい」と言っても止める権利は運営側にある。まさか興行収入のそろばんを弾いたわけではないだろうが、これだけは言える。野球は命を危険に晒してまで行うべきスポーツではない。(専門委員)

 ◆君島 圭介(きみしま・けいすけ)1968年6月29日、福島県生まれ。東京五輪男子マラソン銅メダリストの円谷幸吉は高校の大先輩。学生時代からスポーツ紙で原稿運びのアルバイトを始め、スポーツ報道との関わりは四半世紀を超える。現在はプロ野球遊軍記者。サッカー、ボクシング、マリンスポーツなど広い取材経験が宝。

[ 2017年10月27日 10:30 ]

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