オコエ瑠偉と大谷翔平に共通する「唯我独尊」の精神

[ 2017年9月25日 10:30 ]

二塁打を放ちベンチに向かってポーズするオコエ
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 【君島圭介のスポーツと人間】おそらく天然なのだろう。楽天のオコエ瑠偉は「気分っす!」を連発する。打撃用のマウスピースを使い始めたのも「気分」らしい。

 「1番・中堅」で先発出場した9月19日の日本ハム戦(koboパーク宮城)で球団タイ記録の1試合3二塁打を放った。普段は試合後に行うウエートトレーニングをその日に限って試合前に行った。理由を聞かれると「気分っす!」。効果はてきめんで、試合前の打撃練習からバットがよく振れたというが、「(試合前のウエートトレを)続けるか分からない」と言った。実際、翌日はやらなかった。

 オコエの「気分」は気まぐれとは違う。きっちりした理由があった。「決まったことを作るのは嫌。やりたいことをやりたい」。自分で自分を縛ることを避ける。「イチローさんだって全部(の打席で)打てるわけじゃないでしょう」。朝食から打席での動作まで決めたルーティンを続けるイチロー(マーリンズ)でも十割打者ではない。自分が同じことをしてもイチロー以上には打てないと知っているのだ。

 オコエの屈託ない笑顔を見ながら、日本ハムの大谷翔平の言葉を思い出した。内角球に対し、腕をたたんで見事に中堅バックスクリーンに本塁打を打ち込んだ大谷に、ある選手の名前を出して「内角の打ち方を参考にした?」と尋ねた。

 「○○さん(選手の名前)は素晴らしい打者です。尊敬もしてますけど、(打ち方を)まねしようとは思わない。状況でチーム打撃が必要なときもあるけど、僕は基本的に全打席ホームランを狙ってスイングをしていますから」

 まさか本塁打しか打ちたくないという傲慢(ごうまん)さではない。投手でもある大谷は走塁中のケガというリスクを軽減するため二塁打ではなく、本塁打を打つ必要性を迫られている。その意味で、大谷は王貞治や松井秀喜とも違ったスイングを求められるのだ。

 天上天下唯我独尊――。ときに「ひとりよがり」の意味で誤用されるが、本来は仏教の教えで「自分という存在はこの世にたったひとりで、だからこそ尊い」というもの。その教えを真理とするなら、やりたいことをやりたいというオコエも自らの選んだ道でスイングを続ける大谷も「唯我独尊」だ。

 天上天下唯我独尊には続きがある。三世皆苦 吾当安此――。どんな世界も苦しみに満ちているが、人は幸せになるに値するという意味と理解している。「唯我」を貫き、二刀流で日本球界の至高となった大谷はさらに厳しい米国へ戦いの場を移すだろう。オコエを待つのもまた「苦」の連続だが、大谷が去った日本球界でひときわ輝きを放つ存在になり得る。オコエの強烈な「唯我」は、そんな香りを漂わせる。(専門委員)

 ◆君島 圭介(きみしま・けいすけ)1968年6月29日、福島県生まれ。東京五輪男子マラソン銅メダリストの円谷幸吉は高校の大先輩。学生時代からスポーツ紙で原稿運びのアルバイトを始め、スポーツ報道との関わりは四半世紀を超える。現在はプロ野球遊軍記者。サッカー、ボクシング、マリンスポーツなど広い取材経験が宝。

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2017年9月25日のニュース