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緑の芝の上、世界の舞台で「高校野球」を

2012年9月、18U世界野球選手権・米国戦の7回1死二、三塁、一ゴロで本塁に突っ込んできた三走のR・マグワイヤに突き飛ばされる日本代表の捕手・森
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 【内田雅也の広角追球】日本―キューバ戦の試合時間は3時間17分だった。カナダ・サンダーベイで開かれている野球のU―18ワールドカップだ。日本時間4日早朝に行われた試合は、雨は降ったが中断があったわけではなく、9回で終了した。それでも今季の日本のプロ野球の平均試合時間(9回試合)の3時間8分(3日現在)よりかかっている。

 この長さがキューバである。投手がプレートを外したり、けん制球を繰り返したり、打者が打席を外したり……と間合いが長い。トップチームにも言える特徴で、このやり方に焦らされては術中にはまる。2度訪問したキューバで取材し、あの長い試合時間を嫌というほど味わった。

 その点で最後まで集中力を切らさず、7―2で勝ちきった高校日本代表は立派だった。春夏の甲子園大会で平均2時間前後で終える日本の高校球児たちにすれば、間延びした試合展開は苦痛だったかもしれない。

 しかし、これもまた経験である。国際舞台で世界一を争える機会を喜ばしく思う。

 かつて、日本の高校球児は世界への道がなかった。高校生レベルの世界大会はAAA(18歳以下)世界選手権として1981年に始まった。だが、日本は大会開催時期の8月に夏の甲子園大会があるため、長く参加を見送ってきた。当時、何度も紙面で「世界大会に参加できないものか」と書いた。

 日本代表としての初めて参加したのは9月開催となった2004年の第21回大会だった。大会は2015年から世界野球ソフトボール連盟(WBSC)主催のU―18(18歳以下)ワールドカップ(W杯)と名称が変わり、いま、第28回大会が行われている。

 当地から届く写真を見ると、セントラル、ポートアーサー両球場とも総天然芝の緑が美しい。

 内野も芝というのも国際舞台の特徴だ。一つ思い出した話がある。

 松山商「奇跡のバックホーム」は高校野球史を彩る名シーンだ。1996年夏の全国高校野球選手権大会決勝、松山商(愛媛)―熊本工(熊本)。3―3同点の延長10回裏1死満塁。熊本工の右翼後方への飛球に松山商の矢野勝嗣外野手が回り込み、ノーバウンドで返球。サヨナラ優勝へタッチアップから本塁突入する三塁走者を刺した。

 11回表、松山商が3点をあげ、27年ぶり5度目の優勝を果たした。

 大ピンチを救った80メートル級の大遠投について、敗れた側の熊本工・田中久幸監督(当時=2006年他界)がたたえていた。準優勝に終わった後のオフシーズン。日本高校野球連盟(高野連)事務局長だった田名部和裕さんが聴いた講演で語っていたそうだ。

 「通常あれだけ距離があると、ワンバウンド返球か中継プレーが定石とされる。高校生では非常識と映るノーバウンド返球だが、実は理にかなっている」。田中監督は阪神タイガースの元内野手で現スカウト、田中秀太さんの父親。日産自動車監督として都市対抗優勝に導き、社会人日本代表で監督も務めた。国際試合の経験も豊富だった。

 「日本の野球場は内野が土だが、世界では芝が一般的。バウンドする送球は芝で勢いを殺され、球足が鈍くなる。将来、世界を舞台にすることも考慮して、強肩で直接返球できる外野手を育てたい。私もそのように指導している」。20年以上前、甲子園だけでなく、世界を見すえた考え方に共感を覚えた。

 「奇跡」の翌97年には高野連の諮問機関「21世紀の高校野球を考える会」が「国際的環境を整えるため」として「グラウンド芝生化」を答申した。専門委員の佐山和夫さん(ノンフィクション作家)は「野球場本来のあり方を考えれば答えは出る。土の上では国際的に通用する選手が育たない」と話した。同じく専門委員の西田善夫さん(元NHKアナウンサー=2016年他界)は「ルネサンスののろしをあげよう。甲子園がやれば全国の学校がついてくる。豊かなスポーツ文化が開く」と呼びかけた。

 甲子園の内野天然芝化は結局、見送られた。高校野球は1日4試合を連日行う強行日程で芝の維持・管理に無理があった。それに、甲子園の黒土には長い歴史と記憶が詰まっている。阿久悠氏作詞のセンバツ大会歌『今ありて』には「踏みしめる 土の饒舌(じょうぜつ) 幾万の人の思い出」とある。「メモリー・バリアー」が働いたのも理解できる。

 それでも21世紀に世界を見ていた思いは続いている。日本高野連会長・牧野直隆さん(2006年他界)も「芝生化も大いに検討すればいい。気持ちは分かりますよ。国際化、世界を見ているわけですね」と話していた。かつて高校野球関係者が思い描いた世界の舞台に立てる幸せがある。

 日本は13、15年と2大会続けて準優勝。初優勝へ期待も膨らむ。すでにアメリカに1敗を喫し、決勝進出には負けられない戦いが続く。

 ただ、この高校球児の侍たちに望むのは勝利ばかりではない。すでに当欄でも何度か書いてきたことだ。先の佐山さんが「世界遺産」と言うほど、フェアで精神性の高い日本の高校野球を世界に示してほしい。

 12年大会で、日本はアメリカ選手の猛烈な体当たりで捕手の森友哉(大阪桐蔭=現西武)が2度も吹っ飛ばされた。今では明らかにコリジョン(衝突)ルールが適用されるラフプレーだった。

 佐山さんの著書『野球、この美しきもの』(水曜社=2005年)にはアメリカや中米の高校野球がいかにフェアプレーやチームワークとかけ離れた姿勢でいるかが書かれている。アメリカのフェアプレーの例を尋ねたアメリカ野球学会(SABR)のマイナーリーグ部会委員長、ロバート・マッコンネル氏から文書で回答が届いた。「多くの野球人にとって勝つことが唯一の目的となっています。それはメジャーリーガーから若者たちの野球にまで同じです」

 『大リーグが危ない』(新潮社=2006年)ではワールド・ベースボール・クラシック(WBC)創設にあたり、佐山さんは<「勝つためには方法を選ばない」アメリカ型のベースボールに改善の糸口を与えられるとすれば、日本型の野球ではないか>と書いた。

 キューバ戦の後、小枝守監督が「常に明るくフレッシュにやる」と語ったのは、日本らしさを前面に出す心意気だと受け取った。緑の芝の上、世界の舞台で、100年以上かけて築いてきた「高校野球」を見せてほしいと願う。 (編集委員)

 ◆内田 雅也(うちた・まさや) 小学生のころ、実家の塀に向けての「一人野球」は高校野球世界大会を夢想してやった。甲子園で活躍した球児たちで全日本を組み、アメリカやメキシコを相手に世界一を目指すという夢を描いていた。1963年2月、和歌山市生まれ。桐蔭高―慶大卒。

[ 2017年9月6日 09:00 ]

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