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甲子園では「模範試合」を――「白寿」の高校野球

7月24日の埼玉大会準決勝、春日部共栄―浦和学院で、打球が直撃して倒れ込んだ春日部共栄の大木投手のもとに駆けつける、浦和学院の赤岩主将(背番号16)
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 【内田雅也の広角追球】阪神タイガースを追う日々の仕事の合間に、高校野球地方大会を見るようにしている。現場に足を運ぶこともあれば、テレビ中継、最近ではネット中継を見る。甲子園での本大会以上に感じ入る試合、シーンが多い。

 徳島大会決勝戦後の閉会式で、敗れた板野の捕手は試合中の負傷で車いすで参加となった。整列の際、土にタイヤがとられて困っていると、勝って甲子園出場を決めた鳴門渦潮の選手が駆け寄って助けた。本塁上で捕手と激突した選手だった。

 埼玉大会では直撃のライナーを受けて倒れた春日部共栄の投手に浦和学院の三塁ベースコーチを務めていた主将が駆け寄り、コールドスプレーで応急処置を施した。主将は「痛がっていたので敵味方関係なく気を配ることを考えた」と話した。

 いずれも本紙電子版(スポニチアネックス)に出ていた。スペースに限りがある紙面には掲載されなかった記事だ。恐らく、この手の逸話は各地でいくらもあるだろう。

 一方で、残念な光景も見聞きした。近畿のある大会では先の試合を勝って終えたチームの監督がTシャツ、半パンにぞうりサンダル、首からタオル……と、まるで海水浴に出かけるような格好でバックネット裏に現れたそうだ。高校野球関係者から届いたメールで知った。甲子園出場経験もあるチームの監督である。

 いくら試合後の自由な時間とはいえ、大会会場の観客席である。関係者も多くいる。指導者の服装が乱れていてはどれほど強くとも意味がない。指導を受ける選手たちはたまったものではない。

 <野球の技術を高めるよりも生活態度をあらためることのほうが、はるかに大切なことなのだ>と興南(沖縄)監督の我喜屋優さん(67)が春夏連覇翌年の2011年に出した『逆境を生き抜く力』(WAVE出版)に書いていた。早寝早起き、あいさつ、整理整頓、自分の意見を自分の言葉で伝える……など徹底しており、服装は<襟付きのシャツを着る>。禁止していた眉を剃った選手数人を練習禁止として草むしりをさせたそうだ。<人生のスコアボードで確実に点を重ねて、人生の勝利者になってほしい>との信念がある。

 眉と言えば、昨年3月に亡くなった高校野球の名物審判、達摩(だるま)省一さん(当時79歳)の話がある。夏の甲子園での試合前、東北のチームの選手数人に「何や、その眉毛!」と厳しく指導したことがあった。1人はヘラヘラ笑っていた。「故郷の街には腰パンでタバコ吸うてる高校生がおるやろ。おまえたちはそれと一緒か? 何のために3年間やってきたんや。将来子どもができたら、オレが今言った話をしっかりできる父親になれ」

 達摩さんが監督も務めた関西大OBには審判員が多い。甲子園大会で25年間審判員を務め、今は日本高校野球連盟(高野連)審判技術顧問の木嶋一黄さん(68)は「高校野球は教育としての場を与えられている。先生たちに代わって試合というグラウンドで選手をお預かりしている。チーム側と審判側が協力して一つのことを成し遂げようという機運が必要だ」と語っている。2011年、埼玉県高野連主催の部長・監督研修会で講演した内容を読んだ。

 「ガッツポーズ、雄たけび、もう一度みんなで考えませんか。ほんとにこれ、必要なんでしょうか。相手を考える。相手があって自分がある。(中略)一生懸命準備して一生懸命バットを振って、空振りをしたバッター。そのバッターに向かって叫ぶ。これはどうなんですか」。相手への敬意を欠いてはならない。ガッツポーズは大リーグでも「書かれざるルール」(不文律)として戒められる侮辱行為である。

 木嶋さんは「甲子園は模範試合」と繰り返してきた。審判規則委員長時代には「甲子園では1回戦から決勝まで、すべてが模範試合だ」と審判員に呼びかけた。試合時間2時間を目標にテンポアップをすすめ、フェアプレーの精神を訴える。危険なスライディングや捕手のブロック、打者が捕手の送球を妨害するような行為が見えれば、審判はその都度指導する。

 今年5月に審判規則委員長に就いた窪田哲之さん(60)も関西大出身だ。今夏の甲子園に出場する審判員研修会で「甲子園は模範試合でなくてはならないし、われわれは模範審判でなくてはならない」と訓示した。精神は引き継がれている。

 プロの日本野球機構(NPB)の幹部が「歴史的に見ても、日本の野球界を支えているのは高校野球だ」と認めている。すぐプロができた米国とは異なり、学生スポーツから発展してきた日本野球には武士道精神も相まったフェアネスに満ちている。高野連顧問で作家の佐山和夫さん(80)が「高校野球は世界遺産」と、その精神性の高さをたたえる。

 だが、先の監督の服装のように、乱れを許していては心のほころびが広がる。今春の地区大会で、ある監督が5回終了のグラウンド整備の合間、審判室で怒鳴り声をあげていたと聞いた。これもまた甲子園出場経験のある監督だ。そのチームの投手は審判員の判定にあからさまに不満な態度を示した。監督の悪態が選手に伝染しているのだ。

 「夏は白寿を迎えます」と日本高野連理事、田名部和裕さん(71)の年賀状にあった。今夏99回大会は来夏の節目、100回大会につなげる重要な大会となる。選手はもちろん、監督も審判員も連盟役職員も多くの裏方さんもファンも、そしてわれらマスコミも……新世紀の高校野球に向けた「模範試合」を成し遂げる一員なのだと肝に銘じたい。 (編集委員)

 ◆内田 雅也(うちた・まさや) 裏金や高校野球の特待生が問題化した2007年、春に現状と深層に迫る連載の一員となり、夏の甲子園大会期間中には大阪紙面のコラム『内田雅也の追球』の特別版を『フェアネスを求めて』と題して不定期連載した。1963年2月、和歌山市生まれ。桐蔭高(旧制・和歌山中)―慶大卒。

[ 2017年8月4日 09:30 ]

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