勝敗を分けた数センチ ヤクルト・原樹 将来の糧になる筒香との真っ向勝負

[ 2017年7月29日 13:50 ]

7月17日のDeNA―ヤクルト戦の6回1死、原樹からソロ本塁打を放つ筒香
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 打席の筒香は悔しそうな表情を浮かべ、手にしていたバットをバシッと叩いた。冷静沈着なスラッガー。記者席から見ていた。珍しいシーンだな、と思った。17日のDeNA―ヤクルト戦。マウンド上には2年目右腕・原樹がいた。

 場面はヤクルトの0―1で迎えた6回だった。1死無走者。原樹は昨季のリーグ2冠王を抑え込もうと、真っ向勝負を挑んだ。フルカウントからの6球目は、内角高めへの146キロ直球。ファウル。さらに続けた7球目も内角高めへの147キロ。「気持ちが前に出た。僕は引くつもりはなかった。100%でいった」と原樹。再びファウルにした筒香は、明らかに悔しがった。強気の攻めに気迫で応える。見応え満点の対決だった。

 続く8球目はフォークボール。コースは真ん中、やや浮いた。結果は右中間スタンド中段への一発。「僕の投げミス。浮いてしまった。あのレベル(の選手)だとしっかり打つ。もっと低めに落とせれば…」。直前の悔しい表情から一転、フォークを冷静に打ち返した筒香は見事だった。1球に対する気持ちの切り替えこそ、好打者たるゆえんだろう。一方の原樹は、直球で強気に内角を突いたのを伏線に、最後は三振を狙った。捕手の中村からは「サインに首を振れ」の指示が出た。相手に「何を投げるんだ?」と惑わせる。念には念を入れての勝負球だったが、ほんの数センチの差で軍配は筒香に上がった。

 試合後、ヤクルトの伊藤投手コーチは打たれた原樹の1球を「筒香には失礼な(甘い)ボールだった」と言った。その一方で「彼は一番の成長株。将来のスワローズ(の投手陣)をしょって立つ存在」と続けた。将来のエース候補。3回には筒香の強烈な打球を右足甲を直撃し、試合後も痛みもあって足を引きずっていた。そんな中で挑んだ真っ向勝負。打たれはした。それでも原樹にとっては、さらなる成長への大きな糧となる1球だったろう。試合は1―2で敗れ、連敗は11に伸びた。試合後にその記事を書きながら、原樹と筒香の勝負を何度も反芻した。プロの世界は、こうやって投手と野手が磨き、磨かれていく。(記者コラム・鈴木 勝巳)

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2017年7月29日のニュース