黒田博樹氏 カーショーとグラブに刻む絆「ヒロへ。これからもずっと…」

[ 2017年6月30日 10:30 ]

カーショーから黒田に贈られたメッセージ入りのグラブ
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 昨季限りで現役を引退した元広島の黒田博樹氏(42)には引退報告をしたい選手がいた。メジャー現役最強左腕、ドジャースのクレイトン・カーショー投手(29)だ。5月にドジャースタジアムを訪れた黒田氏は、08〜11年の4年間同僚だった左腕とキャッチボールを行った。そして、サプライズプレゼントが贈られた。 (奥田秀樹通信員)

 ヤンキース時代の13年以来、4年ぶりに訪れたかつての本拠地で、黒田氏はカーショーに引退を直接報告すると、意外な言葉が返ってきた。「キャッチボールをしよう!」。彼の先発翌日だった。

 「事前には知らせていなかったんですよ。前日に投げて肩もパンパンに張っていたはず。(11年シーズン終盤の)アリゾナでのことを思い出しました。僕がFAになるし、チームメートとしては最後かもと、彼はシーズンの登板を終えていたのにキャッチボール相手になってくれた」

 さらに驚かされたのが、グラブをプレゼントされたこと。そこにはこう書かれていた。

「TO HIRO:YOU WILL ALWAYS BE MY FAVORITE CATCH PARTNER!(ヒロへ。これからもずっと大切なキャッチボール相手だよ)」

 米国ではカーショーのようなスーパースターでも、契約メーカーから無料提供されるのは年間1個だという。心に染みた。

 「米国人ならもう少しドライな感じであってもいいのに、情が深いというか。同じものを5年使っていると聞いていた。そんな貴重なグラブを…。その気持ちがうれしかった」

 今ではメジャー最強左腕と称されるカーショーも、08年春にべロビーチキャンプで初めて出会った時は、実績のない有望株にすぎなかった。年齢も黒田氏の33歳に対して20歳。一回り以上も違う2人が絆を深めたのは、当時のジョー・トーリ監督の起用法からだった。オープン戦は必ず先発・黒田、2番手・カーショーだった。

 「初めてキャッチボールをした時は、ボールの質の高さに衝撃を受けました。中でもカーブですね。1回止まって、それから真下に落ちる感じでした」

 数年後にスライダーを習得し、さらに進化した。「僕は反対したんです。投げ方が変わってしまうと。ところが、そのスライダーでバンバン三振を取るようになる。真っすぐの軌道で入ってくるので打者は真っすぐのタイミングでボール球を振る。カーブだと(バットが)止まることがありますから。普通、20歳ちょっとである程度抑えられれば、このままで勝てると満足する。なのに、彼は先を見ていた。日本の20代とは違うなと」

 黒田氏もカーショーに、体のケアやプロアスリートの心構えを伝えた。

 「当時のドジャースにはベテランが結構いて、カーショーは遠慮してほとんどトレーナー室に入ってこなかった。その時に“今は若いからいいけど、ケアをしっかりして疲れを取らないと。交代浴(熱い風呂と冷たい風呂に交互に入る)だけでもやった方が全然違うよ”と言った」

 カーショーにとって、黒田氏の存在がどれだけ大きいかを示すのが、このグラブだ。カーショーは黒田氏とキャッチボールをした日々を忘れない。「WILL ALWAYS BE」――。絆を一生のものと考えている。

 ▽黒田氏とカーショー 黒田は11年シーズン中にド軍残留かトレード移籍か迷い、カーショーに相談。左腕は「Stay Here(ここにいてくれ)」と訴え、この言葉を聞いた黒田はトレード拒否権を行使し残留。14年オフに黒田が広島復帰した際、カーショーは「いずれ自分もカープのユニホームを着て(黒田登板時に)一塁を守りたい」と冗談を言い、昨季引退を表明したときも「素晴らしい友人だった。一緒にプレーできて本当に良かった」と話した。

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