職人・大松の存在感 ヤクルト伝統“再生工場”でもうひと花

[ 2017年5月21日 09:40 ]

9日の広島戦の延長12回無死、サヨナラ本塁打を放ち、真中監督と抱き合う大松
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 また打つのではないか。打席に入るだけでドキドキさせられる選手がいる。ヤクルト・大松。昨年、ロッテを戦力外となり、今季からヤクルトの一員となった。「拾ってもらえた球団に感謝してる。恩返しには活躍するしかないと思う」。実直な性格も魅力の一つだ。

 その人柄もあり、新天地にもすっかり溶け込んでいる。象徴的なシーンがあった。9日の広島戦(神宮)。同点の延長12回。代打でサヨナラ弾を放った。劇的な移籍1号。目頭を熱くしたのは、打った本人だけではなかった。ベンチの仲間たちも涙を流していた。

 熱い抱擁を交わし、泣いていた野村バッテリーコーチは「苦労していたからね。胸が熱くなったよ。このチームではベテランだけとベンチでは声も出すし、出番に向けて黙々と準備をしていた。頭が下がる思いで見ていた。本当に良かったよね」。しみじみと振り返る姿が印象的だった。

 04年にドラフト5巡目でロッテに入団した。以来、ロッテ一筋。狂いが生じたのは昨年5月のこと。2軍戦で右アキレス腱を断裂した。困難なリハビリ生活へのいら立ちと悔しさで涙した日もあった。10月に戦力外通告を告げられたが、リハビリ中で12球団合同トライアウトも受けられなかった。「先は見えなかったけど、野球がしたかった」。選んだのは野球浪人。ひたむきな姿にヤクルトから声がかかった。

 術後で現在もケアは欠かせない。試合前後の入念なストレッチは日課。休日も患部が固まらないように気遣う。今のチームは畠山、グリーンの2軍生活により一塁を固定できずにいる。当然、大松も有力候補の一人だが、まだ毎試合の先発出場は厳しい状況にある。真中監督は「もう少しコンディションが戻れば」と将来的な正一塁手としての起用を検討している。1試合に数打席立てばもちろんだが、代打としてベンチに控えるだけでも相手には脅威となる。

 今月末からは交流戦が始まり、DHの選択肢も増えてくる。ヤクルト伝統の再生工場。「もっともっと打って。チームに貢献したい。もうそれだけです」。大松にはぜひとも、もうひと花、咲かせてもらいたい。(記者コラム・川手 達矢)

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2017年5月21日のニュース