渡辺俊介氏の続・金言 侍JをWBC制覇に導いた「何が起きても驚かない空気」

[ 2017年2月11日 11:02 ]

06年WBC決勝のキューバ戦に登板した渡辺俊介投手(AP)
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 スポニチ紙面で今月2日付から連載している「歴代侍の金言」で、ロッテ時代に第1、2回WBCの連覇に貢献した新日鉄住金かずさマジックの渡辺俊介投手兼コーチ(40)を取材した。紙面の連載では同じアンダースローの西武・牧田がキーマンとなると予想していることと、過去の2大会で先発、中継ぎを経験したことから試合前から投手の起用法を明確にしておくことが必要との提言を紹介した。それ以外にも様々な話を聞いたので今コラムで紹介したい。

 まずはWBC公式球について。日本のNPB球よりも滑りやすいとされるWBC球を「ガラスを持っているような感覚。持っていて落としそうで怖い」と表現した。「滑るものを力まずにつかむ感覚を養うため」にWBC球を軽く握ってランニングをしたり、つるつるした素材のトレーニング器具を意識的に使って、肩のトレーニングしていたという。「ボールは滑るものだと思うこと」が重要だそうだ。

 日米の湿度の違いによってもボールの感触が変わるという。「(決勝トーナメントが行われる)ドジャースタジアムは特に乾燥しているし、夜は結構肌寒いので(日本よりも)もっと滑る感覚がある。体を暖めて汗をかいてもすぐに乾いてしまうので、指先の感覚が全く違う。日本で対応できていても、米国で同じように投げようとしたときに滑って焦る選手が1回目も2回目もたくさんいた」と証言。国際試合用のロジンバッグは日本で使用するものよりべたつきは増すが、湿度が低い米国では日本で使用する時より乾燥していたそうだ。

 NPB球より重いとされるWBC球に慣れるための対策も工夫をこらした。「極端に重さの違うボールを投げることでそれくらいの差を気にならなくして感覚を軽くリセット」させるため4オンス(約113グラム)、5オンス(約142グラム)、6オンス(約170グラム)と3種類の異なる重さの球を用意。繊細な右腕の感覚をあえて「だますために」遊び感覚でキャッチボールで使い、感覚の違いに驚かないようにしてきた。5オンスは規定の範囲内の重さ。4オンスのボールは腕の振りを速くする効果があり、6オンスは筋力強化で故障防止に役立つという。これらを交互に使い分けることにより、WBC後にNPB球へ適応するときにも役立った。

 野球以外の生活面でも戸惑うことも多かったという。米国到着後すぐにホテルのルームサービスや清掃を頼んだ際に細かい紙幣がなく、少し多めにチップを渡した選手がいた。すると、それ以降清掃係らが頻繁に各部屋を訪れるようになり「朝起こされてみんなストレスだって言っていましたね」と苦笑いする。渡辺も入浴剤の色素が浴槽に着色し、客室の清掃係に1時間ほど「バスタブに色が付いたのは私のせいじゃない」と部屋に居座られたが、チップを渡すとすんなり帰ったそうで「あれは意外とやられた」と振り返った。

 バス移動の際も通常なら15分の距離が1時間かかったりと「日本ではあり得ないアクシデントがいっぱいあった」。だが、「だんだん慣れてきて米国ってこういうものかと。何が起きても驚かないし、諦めないっていう空気に変わってからチームの強さがあった」とチームの変化を実感した。「凄い動揺した」という06年WBCの日本―米国戦での「世紀の誤審」をはねのけたのはもちろん、WBC制覇の裏側にはグラウンド外での困難も乗り越えた精神的なタフさがあったようだ。(記者コラム・東尾洋樹)

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2017年2月11日のニュース