雄弁だが万能ではない「数字」にご注意!代表例は「50メートル5秒7の俊足」

[ 2017年1月23日 10:45 ]

キャッチボールするアロルディス・チャプマン投手
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 スポーツの世界で何よりも雄弁なものの一つに「数字」がある。比較対照としての物差しとして、これほど単純明快なものはないはず。ただ一つの数字だけで、簡単には計れないことが多いからなかなか厄介だ。

 米国ではつい先日、ヤンキースに復帰した守護神アロルディス・チャプマンがレッグプレスで約450キロ(990ポンド)の重量を扱っているニュースが話題となった。

 昨季世界最速105・1マイル(約169キロ)をマークした左腕。その剛速球の発射台となる下半身が、いかに鍛えられたものかというのがよく分かる。

 一方で国内に目を向ければ、日本のプロ野球選手も負けていない。一昨年1月、広島・新井は自主トレ公開で、600キロのレッグプレスを10度蹴り上げた。指導する広島市のジム「アスリート」の平岡洋二代表は「600キロは全盛期とほぼ一緒」とコメント。確かにあの下半身なら、と納得させられる。

 レッグプレスは、マシンを備えたスポーツジムなら器具をよく目にする一般的なメニュー。ジムに一日でも体験入会したことのある人なら、その数字を実感できると思う。ただより理解を深めるには、その重量で、どの角度で、何回上げて、何セット繰り返して、といった細かな数字も必要だ。チャプマンの450キロは1RM(1度で上げられる最大重量)ではないだろう。その数字の大きさにインパクトはあり、常人離れしていることは分かるが、比較論には使えない。

 違った理由で、個人的にアテにしていない数字の代表例が「50メートル5秒いくつの俊足」という類。たいていトップクラスの俊足アスリートは「5秒7の俊足」と評されることが多い。

 ただ50メートルの日本記録は朝原宣治が残した5秒75。これとて四捨五入すれば5秒8なわけで、50メートルを5秒7で本当に走れたら日本記録保持者になってしまう。野球やサッカーを辞め、陸上で頂点を目指すことを真剣に考えてもいいほどだ。

 なぜこのような事態が頻発するかというと、野球部やサッカー部のタイム計測は手動のストップウォッチでとられることがほとんどだから。本来なら「手動計で」と説明した方が親切だ。

 同じ手動タイムでいうと、投手の投球モーションのクイックタイムも誤差の範囲が広い。これも計測方法という同様の理由により。いずれも平均値を求め、「俊足」「クイックが速い投手」とザックリした棲み分けはできても、横で比較する物差しには不適当。単発では「雄弁」たりえない数字にはご用心を。(記者コラム・後藤 茂樹)

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2017年1月23日のニュース