台湾WL活躍の陰で…オリを去る“吉田正に惚れ込んだスカウトマン”

[ 2016年12月19日 09:13 ]

昨年10月、オリックスから1位指名され、加藤編成部長(右)、中川アマチュアスカウトグループ長(左)からあいさつを受けた吉田正
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 昨年ドラフト1位でオリックスに入団した吉田正尚外野手(23)が、いよいよ本領を発揮してきた。腰椎椎間板症の影響もあり、1年目の今季は大半を2軍で過ごしたが、やはり“もの”が違う。ドラフト新人では81年の原辰徳氏などに並ぶ開幕6試合連続安打を放ち、オリックスの新人選手では阪急時代の熊野輝光が85年に記録して以来、31年振りの2桁本塁打をマーク。異彩を放ってきたが、台湾ウインターリーグでの爆発力は、それを裏付けるものだ。

 日本球界に比べてレベルが低いとはいえ、打率・549をマークし、2位を1割以上も離すぶっちぎり。もちろん、6本塁打、26打点も断トツで、堂々の三冠王に輝いた。28安打は最多安打でもあり、バットマンレースでは敵なし状態。ドラフト指名「当たり」の予感が漂ってきた。

 しかし、その功労者は、ひっそりと今季限りでオリックスを去ろうとしている。前編成部長の加藤康幸氏だ。

 昨年ドラフト会議の数日前、オリックスは明言こそしなかったが、吉田正尚指名を暗に示唆して、他球団を牽制した。おそらく、そのシナリオを書いたのが加藤氏だったのではないか、と感じている。実はスカウト会議で、吉田正を推したのは、加藤氏ただ1人。現場からも投手優先の希望が伝えられたが、最後まで首を縦に振らなかった。T−岡田に続く和製大砲がほしい。その思いは、決してぶれることがなかった。

 後日談でこんな話を聞いた。大阪から朝一番の飛行機で上京し、吉田正の試合を観戦。しかし通常、スカウトが陣取るバックネット裏ではなく、右翼ポール際に変装して大学生の中に紛れていたという。打力に関してはチェックする必要もない。注目したのは、凡退した後の守備だった。

 「もし、打てなかった後の守備で、首をかしげていたり、打撃フォームをチェックしたり、そんな仕草をしたら、俺は獲らなかったと思う。きちんと切り替えて、守備についていた。あっ、この選手はプロで通用するかもと思ったんだ」

 選手に惚れ込む心は、ある意味で記者とスカウトで似ている部分がある。自らの直感を信じ、スカウト人生をかけて指名した。大げさな言い方だが間違っていないだろう。

 チーム低迷の責任を取り、11月に編成部長を解任され、今季限りで退団するが、今思うとオリックスにこそ、必要な人材だったのではないだろうか。「日本一、吉田正尚に惚れ込んだスカウトマン」。その価値は、近い将来、きっと吉田正のバットが証明してくれるだろう。(鶴崎 唯史)

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2016年12月19日のニュース