【野村謙二郎氏の大分析】8回ジャクソンを乱した 西川の足とネクスト大谷

[ 2016年10月30日 12:00 ]

SMBC日本シリーズ2016第6戦 ( 2016年10月29日    マツダ )

<広・日>8回2死満塁、ジャクソンは押し出しの四球を与える
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 日本ハムが8回2死無走者から奪った大量6点は「走らなかった」俊足・西川の足と、「打席に入らなかった」代打・大谷という表に出ていない脅威が重圧をかけた――と野村謙二郎氏(スポニチ本紙評論家)はみた。結果は4勝2敗も、接戦続きの日本シリーズだったと称え、敗れた広島には悔恨を晴らす成長を期待した。

 日本ハムの8回の勝ち越し点は、何より2死から右前打で出た西川の足が効いた。西川はスタートの構えだけで走ってはいない。だが相手に与えた重圧は相当だった。

 4―4で同点の終盤。2死一塁は二盗の局面だ。日本シリーズとなればデータ収集も十分できている。広島・ジャクソンは二盗を恐れるあまり、打者・中島に投げる間、計5球もけん制球を放った。いや、けん制球を投げさせられていたと言える。走者に神経をすり減らし、打者への集中力を欠いた。自分の間(ま)で投げられなくなっていた。クイックモーションを使ってボール先行となり中島、岡にも制球が甘くなり、中前打を浴びた。もちろん、6試合連続登板という疲労もあるだろう。シーズン中、セットアッパーとして活躍したジャクソンからは考えられない姿だった。

 2死満塁で打席に4番・中田を迎えると栗山監督は次打者席に、切り札と言える大谷を立たせた。次は投手バースの打席だが、本当に大谷を代打に送る気はなかったとみる。1点差で代打大谷を送り、凡退ならば終盤、さらに延長戦での継投が心もとない。大谷は今シリーズの目玉と言える存在だ。次打者席に出ただけで球場の雰囲気が変わり、ざわめいた。十分相手への重圧となった。栗山監督としては、打てる手はすべて打とう、と大谷を表に出したのだろう。

 結局、中田に一球もストライクが入らず、押し出しで勝ち越し点を与えた。緊張の糸が切れたのか、バースにも中前適時打、レアードには満塁本塁打を浴びて、大量6失点となった。1点を惜しんでの6失点だった。つまり、スタートを切らなかった西川の足と、打席に立たなかった大谷という、表に見えない脅威と重圧があったのだ。

 また、2本の三塁打もあった西川は第4戦まで不調だったが、第5戦のサヨナラ満塁本塁打で変身した。狙ってない球でも体が反応するという最高潮の状態だった。西川、中島の1、2番で5安打4四球と9度も出塁。文字通り打線をけん引した。この重圧が終盤の大量点となって実った。

 敗れた広島も健闘を称えたい。誰が悪かったと責める気などない。試合後の表彰式で整列した選手たちの表情を見た。誰もが日本シリーズでの敗戦は一生忘れないだろう。リーグ優勝しながら日本一になれないという悔しさは、この舞台に出た者にしか味わえない。

 栗山監督が「忘れ物」と話していたように、さらに高い目標を掲げて精進することだ。引退する黒田がいい置き土産を残していってくれたのだ。この悔しさを生かさない野球人はいないはずだ。

 地元で連勝しながら、札幌で競った試合を落として流れが傾いた。だが、栗山監督が話した「どちらに転んでもおかしくない展開」というのは本音だったろう。わずかの差だった。北海道と広島。地元に根付いたチーム同士が見せた野球の醍醐味(だいごみ)。素晴らしい戦いぶりに拍手を送りたい。(スポニチ本紙評論家)

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2016年10月30日のニュース