【栗山監督独占手記】選手たちが輝いてくれたから、優勝することができた

[ 2016年9月29日 08:10 ]

<西・日>栗山監督と抱き合う大谷
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パ・リーグ 日本ハム1―0西武

(9月28日 西武プリンス)
 日本ハム・栗山英樹監督(55)が就任1年目の12年以来4年ぶりのリーグ優勝を達成した。リーグ3連覇を狙った王者ソフトバンクに最大11・5ゲーム差をつけられながら、球団新記録の15連勝で猛追。最後のデッドヒートも制し、大逆転優勝をつかんだ。その背景には、二刀流・大谷の「1番・投手」、守護神・増井の先発転向など数々の「栗山マジック」があった。その指揮官がスポニチ本紙に独占手記を寄せた。

 勝ち切れた。勝ち切ってくれた。シーズン142試合目に、やっと選手たちが喜ぶ姿を見ることができた。勝たせないといけないと思っていたからホッとした。今は、ただただ感謝しかない。素晴らしい裏方さんとスコアラー、スカウトの皆さん、球団の人たちとコーチたち、そして選手たちの能力があったからこそ勝ち切れたんだ。

 ここまで一緒に戦ってきたと思っているファンの方たち、そんな全ての人たちに今は、感謝の言葉を伝えたい。

 本当にありがとうございます、と――。

 ソフトバンクに11・5ゲーム差をつけられたシーズン。でも、そのこと自体は、あまり考えなかった。尊敬する経営評論家の井原隆一さんの言葉に「真に信ずれば知恵が生まれる」とある。自分が信じていなければ、不安だったら絶対に追いつかない。俺だけは「絶対に追いつくんだ」と思ってやらなければ、知恵も生まれない。「今年は無理」と思ったら作戦自体が変わってしまう。だから、全然大丈夫、明日の試合に勝てばいい。ゲーム差を考えている暇などないんだ、という雰囲気をつくった。選手たちはゲーム差なんか関係ないということが分かったシーズンでもある。

 連勝を重ね、その中心を担っている選手が前に進む。そこにもうひとつ乗り切れてなかったのが翔平(大谷)であり、翔(中田)だった。翔平は何か野球をやっていて楽しくない。開幕から、そんなふうに見えた。一番野球が好きなはずなのに。できることができなければ楽しくない。とにかく楽しそうに野球をやらせるのがベースで、そうすれば活躍するし、成績も残る。そこでDHを外すことを考えた。「1番・投手」で使った7月3日のソフトバンク戦。宿題が難しければ難しいほど集中すると思った。

 いつも見守ってくれていると信じている三原脩さんには、常に「翔平の二刀流はこれでいいんですか」と問いかけながらやってきた。もっといい使い方があるのかもしれない。もちろん、翔平だけではない。一人一人が輝くきっかけをどうつかむか。そのことだけを考えてやってきた。

 15連勝中の6月27日の西武戦。完璧にやられていた岸が悪送球したときの卓(中島)の全力疾走だったり、翔に代打を送ったのもその試合だった。ただ、選手を本気にさせるのは言葉ではないこともある。今年は使い方で選手にメッセージを送ってきたつもりだ。どう本当に「やばい」と思わせるか。それは大きな負担をかけたり、試合に出られないことだったりする。遥輝(西川)にしても、日本一秀でた選手になれると思って何年もやってきて、本気で「この方向なんだ」と歩み始めた感じがする。

 厳しい使い方でメッセージを送らないといけないと思ったし、選手が「この野郎――」と思うこともあったはずだ。でも、本当の愛情とは何なのか。去年、ソフトバンクにあれだけやられて。あんな悔しい思いをするなら、先に悔しい思いをさせて勝たせてあげないといけないと思った。

 徳川家康の愛読書「貞観政要」に、こんなことが書いてある。貞観が治めた時代。城の門のところには石段が2段しかなかった。王(皇帝)のところまでたった2段。本当に愛情を持って人に尽くしている王は、それで十分に人を守ることができるという。人を守るには人に尽くさないといけない。抑えから先発に回した増井も、終盤に抑えをさせた吉川も、自分らしく輝かせるにはどうしたらいいか。俺が選手ならどうなったら一番いいのか、選手の一番いいことだけを考えた。人のために尽くすことが、何かを達成できることは歴史が証明している。

 選手たちが輝いてくれたから、優勝することができた。褒めてあげたいし、誇りに思う。だからいま一度、言いたい。

 本当に、ありがとう。(北海道日本ハムファイターズ監督)

 ◆三原脩氏 巨人、西鉄、大洋、近鉄、ヤクルトで監督を歴任して4度の日本一の名将。策士としても知られ、偵察メンバーやワンポイントでの投手起用などを積極的に行った。栗山監督の背番号80は、三原氏のヤクルト監督の背番号。

 ◆貞観政要(じょうがんせいよう)中国史上最高の名君の一人と言われる唐朝第2代皇帝、太宗の言行録。太宗の政治に関する言行が記録された書で、全10巻40編から成る。古来から帝王学の教本とされる。「貞観」は太宗の在位の年号で、「政要」は政治の要諦のこと。徳川家康の愛読書としても知られ、家康は活字版を発刊させて普及に努めた。

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