「ビッグ・パピ」は本当に引退してしまうのか?

[ 2016年9月17日 09:07 ]

レッドソックスのデービッド・オルティス (AP)

 【永瀬郷太郎のGOOD LUCK!】シーズン16試合を残して打率・317、34本塁打、114打点(9月15日現在)。こんなに打ちまくって本当に辞めるっていうの?15日のヤンキース戦で通算537号本塁打を放ち、伝説の強打者、ミッキー・マントル(ヤンキース)を抜いて歴代単独17位となったレッドソックスの主砲デービッド・オルティスである。

 彼は昨年11月18日、40歳の誕生日に2016年シーズン限りでの引退を表明した。そのフレーズがかっこいい。

 「人生はいくつかの章に分かれている。次の章に進む準備ができた。1年終わったら、それが終わりの時期。家族の一員のように記憶してもらいたい。来年を楽しもう」

 そう宣言して迎えたラストシーズン。開幕から、そりゃ楽しいだろうよというほど打ち続けてきた。ファン投票DH部門断トツの436万4746票を獲得して出場したオールスターゲーム(ペトコ・パーク)では、第1打席痛烈な一ゴロに続いて第2打席は四球。スタンディングオベーションで見送られた。

 ニックネームは「ビッグ・パピ」。でっかいお父さん。打席ではおっかない顔で投手をにらみつけるが、いつもは穏やかで律義。初めて接したのは2004年だった。

 この年、レッドソックスはワイルドカードでポストシーズンに進出し、リーグ優勝決定シリーズで宿敵ヤンキースに3連敗のあと4連勝。オルティスは第4戦サヨナラ2ラン、第5戦でサヨナラ安打を放ってMVPに輝いた。さらにカージナルスを4連勝で破り、86年ぶりのワールドチャンピオンに貢献。その直後、僚友マニー・ラミレスとともに日米野球で来日した。

 開幕戦前夜のレセプション。オルティスはNPBの指揮を執る王貞治(当時ダイエー監督、現ソフトバンク球団会長)の姿を見つけると真っ先にあいさつに訪れた。「世界の王」に敬意を表し、第2戦(東京ドーム)では下手投げの渡辺俊介(ロッテ)から、右翼席後方の照明付近にまで届く157メートルの特大弾。気は優しくて力持ちぶりを存分に発揮した。

 2006年3月に行われた第1回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)、ドミニカ共和国の取材に行って声を掛けると、私の肩に手を置いて気楽に話してくれた。20歳も年上で白髪のおっさん記者に対しても「ビッグ・パピ」なのである。

 日本では1980年、王さんが30本塁打を放ったシーズンを最後に引退した。東京・芝のグランドホテルで行われた引退記者会見。王さんは引退決意に至った思いをこう話した。

 「口はばったい言い方になりますが、王貞治のバッティングができなくなったということです。ファンの皆さんが期待してくれているホームランを僕なりに打てなくなったのが最大の理由です」

 王さんがバットを置いたのも40歳のときだった。だが、最終年は打率・236にあえいだ王さんと違って、オルティスは3部門ともバリバリの成績を残している。

 前言を翻したって誰も文句は言わないと思う。でも、あれほどはっきり表明しちゃったから…。そうだ。「次の章」を日本で迎えるってのはどうだろう。無理かなあ。(特別編集委員)

 ◆永瀬 郷太郎(ながせ・ごうたろう)1955年、岡山市生まれ。早大卒。東京の予備校に通っていた74年10月、冬期講習申し込みの列を離れて後楽園球場に走り、長嶋茂雄最後の雄姿に涙する。82年の巨人を皮切りにもっぱら野球担当。還暦を過ぎ、学生時代の仲間と「バンドやろうぜ」で盛り上がっている。

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