【内田雅也の追球】「熱い9月」への入魂 中谷ミスを指摘するコーチの愛

[ 2016年9月1日 10:07 ]

<中・神>7回裏2死二塁、吉見の中前打で、バックホーム返球する中谷

セ・リーグ 阪神0-1中日

(8月31日 ナゴヤD)
 【内田雅也の追球】「野球のコーチは寺子屋の師匠のようだ」と言ったのは「学生野球の父」飛田穂洲だった。著書『熱球三十年』(中公文庫)にある。「グラウンドは学校の教室のように冷たいものではない。小言も言うが、師弟が近接して立っている。呼吸も相通ずれば、手も触れ合う。そこに自然の情愛がわく」

 だからだろう。0―1で余計痛みがしみる敗戦の後、阪神外野守備走塁コーチ・中村豊は「もし、かばってあげられるなら、僕もそう言ってあげたい」と話した。

 痛恨の失点となった7回裏2死二塁、投手・吉見一起の中前打で二塁走者・阿部寿樹の生還を許した場面。中堅手・中谷将大の守備位置はもっと前ではなかったか、と問うた時の言葉である。

 守備位置の指示はベンチからコーチが出す。中村の前進指示に責任があれば、中谷の守備の責任も和らぐ、といった意味がある。毎日ノックを打ち、対話する中村と外野陣は「寺子屋の師弟」の間柄である。

 「でも(中谷は)ちゃんと前に来ていました。あれは、やっぱりチャージ(前進処理)が甘かったんですよ。バウンドを合わしにいっていたでしょ」。打球は緩いライナー性で中前に弾み、2バウンド目で捕るのかと見えたが、中谷の処理は勢いが衰えた3バウンド目だった。「だから、三塁コーチも回した。そしてセーフになった。すべては結果ですから。問題はチャージにあったと僕は見ています」

 中谷も辛いが、教え子のミスを責める中村も辛かろう。顔を歪ませ、吐き出すように言った。

 もう9月だ。アメリカでは9月の激しいペナント争いを「セプテンバー・ヒート」と呼ぶ。

 優勝は計算上も絶望となった阪神だが、クライマックス・シリーズ(CS)の望みはある。3位争いの熱い「ヒート」を生み出さねばならない。

 大リーグ「最後の三冠王」カール・ヤストレムスキー(レッドソックス)が「毎年この時期(9―10月)になると、朝、目覚めると野球のことを考えている」と語っている。「一日中、思いを巡らし、夜は夜で夢にまで見ている。唯一考えずにすむのはプレーしている間だけなんだ」。

 一分の隙も見せられない季節なのだ。そんな姿勢を冒頭の飛田は有名な「一球入魂」という言葉にこめた。9月は、いま一度、魂をこめる月である。=敬称略=(スポニチ編集委員)

続きを表示

2016年9月1日のニュース