【内田雅也の追球】阪神「初球・初回」理論でDeNA井納を攻略

[ 2016年8月24日 10:05 ]

<D・神>1回無死、先頭の上本が左前打を放つ

セ・リーグ 阪神9―3DeNA

(8月23日 横浜)
 昭和30―40年代、高校球界に「六車(むぐるま)理論」と呼ばれるセオリーがあった。香川県の数学教諭で高校野球の統計を得意とした六車久行が提唱した。

 今から半世紀前、1966年(昭和41)発表の論文タイトルは「初球攻撃・初回得点理論」。8年間の高校野球356試合のカウント別安打、得点打を分析したグラフをつくると<「0―0」をピークとしたL字型になる>。<量は全安打の4分の1。質も断然勝(すぐ)れていて、勝敗をきめる安打はほとんど初球安打である>。さらに<最近12年間の全国、最近19年間の四国大会から得たセオリー。初回に勝つと77%の勝ち>と強調した。

 じゃんけんに勝ち先攻を取れ、投手の立ち上がりを攻めろ、初球、第1ストライクを打ちにいけ――と必勝法を説いた。

 もちろん50年前の、まだ木製バットで投手上位だった時代の高校野球の話である。だが「理論」は今でも通用する。

 この夜、阪神はまさに「初球攻撃・初回得点」でDeNA井納翔一を攻略しての大勝だった。

 1回表、プレーボール直後の初球を左前打し上本博紀から、5点目をたたき出した坂本誠志郎の初球二塁打まで、要した球数はわずか20球。この間、ストライクの見逃しは4番・福留孝介の初球(バックドア・スライダー)だけだった。

 打撃コーチ・片岡篤史は攻略のポイントに打者の積極性をあげ「初球を打ちに出て、それをよく打ち損じずに打ってくれた」とたたえた。

 阪神は今季、井納に対し、3試合、23イニングで3点しか奪えていなかった。対戦防御率0・78という苦手だった。もちろん、これまでも積極攻撃の姿勢でいた。結果が出た理由について、片岡は「まあ、作戦面は……。井納も10日ぶりの登板で不調だったかもしれない」と言葉を濁した。

 六車は論文発表後、初球攻撃が成功する条件として「投手が決め球を使ってこない」「打者の打ち気が精神的に投手を圧倒する」をあげていた。この夜の井納はカウントを整えようと、初球は直球で入ってきていた。上本、高山俊、坂本の初球安打と今成亮太の初球犠飛はすべて直球だった。

 もう一つの精神面の方はどうだろう。阪神打者の打ち気が井納を圧倒していたのか。クライマックスシリーズ(CS)進出をかけた3位争いの直接対決初戦。追う者の強みが出たと書いておこう。 =敬称略= (スポニチ編集委員)

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