「平成の名勝負」黒田が筒香に雪辱した“最も遠いストライク”

[ 2016年8月24日 08:18 ]

<D・広>1回2死二塁、筒香(右)を空振り三振に斬る黒田(奥)

 「平成の名勝負」。最近では聞かなくなったが、久しぶりにそう言いたくなる勝負を見た。広島・黒田博樹とDeNA・筒香嘉智の対戦である。日本を代表する主砲になった筒香に対し、ストライクゾーンで勝負してくる投手はめっきり減った。黒田は違う。決して逃げない。だから、筒香も「ストライクゾーンで勝負してくれるからメッチャ楽しい」と言う。真っ向からぶつかってこそ、名勝負が生まれる。

 8月13日、舞台は横浜スタジアム。黒田は今季、筒香に7打数4安打、1本塁打と打ち込まれていたが、3打席連続三振に仕留めて雪辱した。

 初回2死二塁。1ボール2ストライクと追い込み、宝刀・ツーシームで空振り三振を奪った。外角低めを狙った1球は内寄りへの逆球だった。だから、黒田は納得した表情を見せなかった。

 4回1死無走者。2ボール2ストライクと追い込むと、ツーシームを内角のボールゾーンからストライクゾーンへ。いわゆる「フロントドア」で見逃し三振を奪った。今度は納得の1球だった。

 6回1死一、三塁。同点で迎えた最大のピンチで2ボール2ストライクと追い込むと、今度は「バックドア」だ。外角のボールゾーンからストライクゾーンへスライダーを投じた。再び見逃し三振。それも、内角へのカットボールで体をのけぞらせた後だった。筒香からすれば、どれだけ遠くに感じたストライクだったことか。黒田の攻撃性と技術が結集した投球だ。手も足も出なかった4番打者は延長10回、薮田からサヨナラ打を放ち、悔しさを晴らした。

 黒田が若かった時、誰よりも高く評価していたのが、当時の敵将だった巨人・長嶋茂雄監督だった。対戦時はもちろん、食事会の席でも黒田の名前を出した。「黒田はいいね~。球が強いし、投げっぷりといい、素晴らしい。近い将来、エースになりますよ」。記者はミスターが褒めまくる言葉を聞いて、黒田に注目するようになった。

 長嶋監督の予言通り、広島のエースになった。ミスターの愛弟子で、同年代の松井秀喜とはライバル関係になった。「常に真っ向勝負をしてきた。そういう投手は、自分がジャイアンツにいた最後の頃はあまりいなかったですから」。松井はそう振り返る。

 十数年の時が過ぎ、黒田は41歳になっても現役を続け、24歳の筒香と真っ向勝負を繰り広げている。松井には150キロを超える直球を投げ込み、筒香にはメジャーで磨いた「動く速球」を投げ込む。投球スタイルは変わっても、ストライクゾーンで勝負していることに変わりはない。この2人の対決があと何回見られるか。できるなら、クライマックスシリーズで見たい。(記者コラム・飯塚 荒太)

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2016年8月24日のニュース