【内田雅也の追球】あきらめない猛虎 原点は少年の心

[ 2016年8月10日 11:00 ]

セ・リーグ 阪神3―10広島

(8月9日 マツダ)
 軟式少年野球のNPB・12球団ジュニア・トーナメント(12月下旬)に出場するタイガース・ジュニアのセレクション(選手選考会)が西宮市の浜甲子園運動公園で開かれている。8日から10日までの3日間で、応募のあった小学6年生185人から18人を選ぶ。

 8日に会場をのぞいてきた。1次選考で62人に絞った。落ちた123人を集め、監督を務める阪神OBの八木裕が行った話が良かった。「今回は残念でしたが、これで終わりではありません。リベンジのチャンスはすぐに訪れます。体も成長するし、野球もうまくなります。あきらめず、努力することです」

 少年(少女も2人いた)は熱心に聞き入っていた。夏空の下、目が輝いていた。これが本当である。原点である。

 そんな話をマツダスタジアムで阪神OB会長・川藤幸三にすると「プロも一緒だぞ」と言った。「ダメだダメだ、では選手を殺してしまう。夢を広げる見方がある」

 野球の原点は少年にある。だからアメリカでは大リーガーを「ボーイズ・オブ・サマー」(夏の少年たち)と呼ぶ。

 そして名選手はいつまでも少年の心を持ち続けている。戦後の本塁打王、大下弘(東急―西鉄)は日記『球界徒然草』に記した。<子ども世界に立ち入って、自分も童心にかへり、夢の続きを見たい>。サトウハチローは『村山実とつみ木』という詩で<村山実にはそのわらべごころが豊富に残っている>と書いた。39歳で奮闘する福留孝介をヘッドコーチ・高代延博は「野球小僧」と呼んで、たたえている。

 少年に立ち返るには、あきらめを排除することだ。「もうダメだ」などと思うのは、文字どおりダメな大人である。

 ならば、この夜の猛虎たちは、少年のように、あきらめなかった。3回裏に5点を失ったが、難敵クリス・ジョンソンから3点を奪い反撃した。1巡目からファウルで粘って食い下がり、2回で52球、5回で104球を投げさせた。一時期のように、序盤の大量失点の後は淡々と引き下がる情けない姿ではなかった。

 焦点は、回の先頭打者に、0ボール2ストライクから安打を許した岩貞祐太と島本浩也の詰めの甘さにある。ともに大量失点につながった。

 ただ、一時は2点差に迫った。その要因は少年の心にあったと書いておく。絶対にあきらめてはいけない。 =敬称略=
 (スポニチ本紙編集委員)

続きを表示

2016年8月10日のニュース