【内田雅也の追球】阪神 苦手ジョーダン攻略への“知恵と度胸”

[ 2016年8月1日 11:00 ]

<神・中>初回無死、高山は左前打を放つ

セ・リーグ 阪神6―1中日

(7月31日 甲子園)
 夕方、甲子園球場周辺には雷鳴がとどろいていた。「ゲリラ豪雨が来る」と球場や球団職員は構えていた。雨の匂(にお)いが立ち込めていた。

 だが雨雲はほんの数百メートル先を通過したそうだ。「紙一重でしたよ」と阪神園芸整備課長の金沢健児が胸をなでおろした。試合開始。西の空には夕焼けが広がり、東の空には虹がかかっていた。

 紙一重は勝負も同じである。中日先発は過去4戦3敗と苦手の左腕ジョーダンだった。試合後、阪神打撃コーチ・片岡篤史は右手親指と人さし指を見せ「これまで以上に速かった。だからみんな、すこ~しだけ、本当にほんの少しだけ差し込まれていた」と言った。

 この難敵攻略に向け、打線として一つの方針があった。それは「反対方向を狙え」である。

 それは明確に打球方向に表れていた。7回降板のジョーダンに対した打者のべ28人中、打球は22本あった(三振、死球、犠打を除く)。うち中堅から反対方向が17本(約77%)に上った。たとえば、左打者の高山俊は左前打に三ゴロ、中飛。右打者のゴメスは右飛、右飛、中前打……といった具合である。

 変化球を引っかけての原口文仁三ゴロ(1回裏)、外角直球を引っ張った遊ゴロ併殺打(7回裏)は凡打となっていた。

 外国人も含めチーム全体で取り組んだ姿勢が7回裏に実を結んだ。先述の江越併殺打の2死無走者から中谷将大が二塁強襲安打。北條史也が左前打で続き、代打・狩野恵輔が左越え二塁打して2者生還の逆転である。

 北條はチェンジアップ、狩野は内角速球を左方向に打ったが、反対方向への意識があったからこそ、開かずに回転しての快打となったと見る。

 片岡は「作戦面のことですので」と断った後、「もちろん、狙いはありましたよ」と、半ば「反対方向狙い」を認めた。

 阪神は甲子園を高校球児に明け渡し、長期ロードに出る。旅立ちへの教訓となる勝利だった。

 1日が命日の作詞家・阿久悠は阪神を題材にしたスポニチ本紙連載小説『球心蔵(きゅうしんぐら)』(河出書房新社から書籍化)に多くの警句をちりばめていた。

 <闘牛士にならんかい。勇気と誇りを持って牛に対(むか)わんかい。勇気には知恵が必要だし、誇りには度胸が不可欠や>

 あの逆転劇には、確かに、攻略への知恵も、そして全体で徹底する度胸もあった。 =敬称略=
 (スポニチ本紙編集委員)

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2016年8月1日のニュース