【内田雅也の追球】阪神・原口に必要な息を合わせる“修行”

[ 2016年7月31日 08:47 ]

<神・中>バッテリーを組む原口(左)とタッチするメッセンジャー

セ・リーグ 阪神8―2中日

(7月30日 甲子園)
 延暦寺の千日回峰行(かいほうぎょう)は比叡山の峰々を7年、1000日かけ4万キロを巡る荒行である。毎日30キロ歩く。この難行を2度も満行した大阿闍梨(だいあじゃり)、酒井雄哉(ゆうさい)が「誰かと一緒に歩いていると、一人の時より歩きづらいって感じることがあるでしょ」と話している。「何となく合う人もいる。呼吸のリズムも近いんだね。だから実際に“息が合ってる”んだよ」=『この世に命を授かりもうして』(幻冬舎ルネッサンス)=。

 コンビの問題は呼吸である。この夜、阪神先発ランディ・メッセンジャーと捕手・原口文仁は前半、どこか息が合っていないように見えた。サインに幾度も首を振り、時には投手板を外した。ベンチに戻る際のタッチも無愛想だった。

 米国の投手は自分が投げたい球が第一だ。捕手も投手に応じる。クレイグ・ライト、トム・ハウス共著『ベースボール革命』(ベースボールマガジン社)に一流捕手の談話があった。「もし投手の長所が打者の弱点を攻めることができるなら、そうする。だが私は弱点と弱点を測るのではなく、長所と長所の闘いを信じている」

 この日米野球文化の違いを認めたうえ、作戦兼バッテリーコーチ・矢野燿大は「だから、メッセはよく首を振る」と言った。「でも藤井(彰人=現球団職員)だと、ああはならない。どこか合うというのはある」

 外国人投手のリードで苦労したのはマリナーズ移籍当初の城島健司である。エースのジェイミー・モイヤーに繰り返し首を振られた。地元紙に城島批判が載った。

 「負ければすぐ『呼吸が』とか『捕手が』と言われる。けど、それだけ期待され、注目されている証拠だと思っている」=『マスクごしに見たメジャー』(集英社)=。

 城島はくじけなかった。投手の希望を聞き、自分の根拠を伝えた。

 矢野は言う。「見た目でも息が合ってないと映るなら、何とかしていくべきです。それにはやはり(コンビを)組まないと。組めば組むほど話もするし、気持ちも通じ合う。そのうち“こいつの言うことなら”と首を振らなくなります」

 この夜も投球が苦しくなる後半6、7回は首を振る回数も少なかった。

 酒井は言う。「こうすれば疲れずに歩けますと言っても他の人に通用するかはわからない。コツは自分でつかむものですよ」。原口自身の“修行”である。 =敬称略=
 (スポニチ本紙編集委員)

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2016年7月31日のニュース