【内田雅也の追球】阪神・原口 謙虚さが生んだ2ストライク後の一打

[ 2016年7月29日 07:35 ]

<神・ヤ>5回1死満塁、原口は走者一掃の適時二塁打を放つ

セ・リーグ 阪神10―5ヤクルト

(7月28日 甲子園)
 打者は2ストライクと追い込まれると不利になる。3割打者でも打率2割前半か1割台まで落ち込むのが普通だ。

 ただし、追い込まれたことで、打者心理に微妙な変化をもたらし、好結果が出ることもある。

 この夜は2ストライク後の快打が焦点だった。

 阪神4回裏、同点としてなお1死一塁でゴメスが左越えに放った決勝2ランは1ボール―2ストライクからだった。外角低めカットボール、高め速球とボール球を続けて空振りし、心理に変化があった。「強引に行きすぎたと打席の中で反省できたから、とらえられた」。強引さを戒める素直な心があった。

 この姿勢は4回表に阪神が失った先取点にも関係している。2死二塁からバレンティンに浴びた中前適時打である。ファウル、空振りの0―2からの外角スライダーだった。追い込まれた際、バレンティンはそっと指1本分余してバットを短く持ち替えていた。軽打の構えだった。外国人大砲でも2ストライク後は打撃姿勢を切り替える。ともに追い込まれるまでの強引さは消えていた。

 同じことが5回裏1死満塁、走者一掃の左中間二塁打を放った原口文仁にも言える。カウント2―0から見逃し、空振りで2―2と追い込まれ、バットを指1本分ほど短く持っていた。シャープなスイングを心掛けていたのだろう。低めカットボールを拾えた。

 強引の反対語は何だろう。謙虚ではないか。

 既に現役引退を発表していた桧山進次郎の最後の打席を思い出す。クライマックスシリーズ(CS)ファーストステージで敗退となる2013年10月13日の甲子園。9回裏2死一塁。広島ミコライオの154キロ速球を右翼席に本塁打した。

 桧山は「僕にも野球の神様がいた」と言った。「強引にいっては失敗する。謙虚にセンターへ、ショートの頭……と思っていたら、体がクルッと回って良い打ち方ができた」

 王貞治も、時には長嶋茂雄もバットを短く持った。そのグリップで謙虚さを自分に言い聞かせていたのかもしれない。

 大リーグの名将トニー・ラルーサが「野球はいつも人を謙虚にさせてくれる」と語っている=ジョージ・F・ウィル『野球術』(文春文庫)=。

 やはり野球の神様はいる。時に、教訓的に、素直さや謙虚さを教えてくれている。 =敬称略= (スポニチ本紙編集委員)

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