【岩手】高田、震災後2度目の初戦突破 「交換日記」が育んだ“考える力”

[ 2016年7月14日 08:41 ]

<水沢農・高田>水沢農打線相手に4イニングを完全に封じ笑顔で校歌を歌う先発の千田(右から6人目) 

復興へのプレーボール 第98回全国高校野球選手権岩手大会2回戦 高田13―0水沢農

(7月13日 花巻)
 東日本大震災から6度目の夏。岩手県立高田高校は13日、第5シードとして岩手大会2回戦に臨み、水沢農を13―0と5回コールドで下した。先発・千田雄大投手(3年)は4イニング、打者12人を無安打7奪三振の完全投球。2番手の水野夏樹投手(2年)も1イニングを3人で封じる完全継投で13年以来、2度目となる白星スタートを切った。3回戦はあす15日に伊保内と対戦。岩手では22年ぶりの公立校の甲子園出場を目指し、高田高校の夏が幕を開けた。

 背番号1のプライドを、示したかった。昨夏と同じ、花巻球場で迎えた初戦。千田はマウンドで躍動した。先頭打者には多少力んだ。1死から連続空振り三振を奪うと、冷静になった。2回以降は球威が戻った。直球とカーブ、チェンジアップを織り交ぜ、4イニングを46球、無安打7奪三振投球。3回まで64球を要し、7安打4失点で降板した前回の記憶を払しょくした。

 「最後まで投げたかったのが本音ですけど、落ち着いていられたのが今年の収穫です」。2番手の水野も3人で抑え、水沢農に1人の走者も許さない完全継投。打線も11安打で13得点を挙げて5回コールドと完璧な戦いだった。千田にとって試合後、球場に校歌が流れたのは、3年生にして初めての経験だった。

 新チームの公式戦初戦は、15年8月29日、沿岸南地区予選。対戦相手は釜石だった。エースとして7回を73球、5安打1失点に抑えて、打線も相手投手・岩間から12安打など10―1と圧勝。地区1位で進んだ岩手県大会は16強入りし、手応えをつかんだつもりでいた。

 しかし1月29日、21世紀枠でセンバツ出場校に選出されたのは釜石だった。選考理由は「震災で甚大な被害を受け、練習に制約がある中、強豪と互角に勝負し希望を与えた」。高田に敗れた釜石はその後に奮起。敗者復活戦を勝ち上がって県大会に進み、県準優勝して出場した東北大会は2回戦で強豪・東北(宮城)に2―3と善戦。出場に異論はなかったが「うらやましいというか、悔しいというか。複雑な気持ちだったのは確か」。千田はテレビの画面越しに見る釜石の姿に、刺激された。甲子園は憧れるだけの場所ではない、と確信した。「だから絶対に“夏に行きたい”って気持ちは強くなりました」

 勝つために足りないものは何だろう。常に考えた。体重や体脂肪率に加え、筋肉量や除脂肪率などを測り、数値で体を管理した。母・さゆりさん(52)は独学で栄養学の知識を身に付け、食事面で支えてくれた。野球関連の本も、たくさん読んだ。「野球は一人でやるスポーツじゃない」から、仲間のことを大切にした。援護がなくてもエラーで失点しても、いつも笑顔を心掛けた。

 それでも、練習試合で打ち込まれることが続いた。原因は分からない。春の地区予選ではエースナンバーを剥奪された。1年夏に背番号20でベンチ入りしてから、常に期待を背負ってきた。応えられない自分が、もどかしかった。

 救ってくれたのは「交換日記」だった。今年4月、北島亨副部長(53)から提案された。「とことん、野球の技術を磨くための交換ノートを始めよう」。週末の練習試合のスコア用紙を見て、自分なりに試合を分析する。提出期限は4日後の木曜。考える力が試された。

 「あそこであの球種を使ったのは、どうしてだろう」「あの場面、こんなふうにいられれば良かったかもしれない」。野球を分析することは、心を知ること。それは、自分の弱さに気づくことだった。「今まで弱音は恥ずかしいというか、人に言うものじゃないと思っていた。でも、そうじゃない。弱い自分を受け入れて、次につなげればいいんだって分かりました」。弱さを知って、強さを得た。最後の夏、背番号1を取り戻した。千田は「この番号が好きです」と屈託なく笑った。 (金子 しのぶ)

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2016年7月14日のニュース